それから流れる時間は穏やかだった
月明かりの元でブランコに乗り鼻歌を歌う
そんな私を峯さんは只黙って見つめていた
なんだかこの世界に私と峯さんの2人しかいないみたいな錯覚
こんな世界があったのならば彼は私をずっとこうやって見続けてくれるのだろうか...

「覚えてますか?」
『何をですか…』

不意に声をかけたら峯さんの体は揺れた
でも返事をくれたことに少し安堵しつつ

「峯さんが私を見つけてくれた時の事です」

はい と静かに頷く峯さんを見つめると音もない笑いが溢れた
更に覚えていてくれたという言葉に気持ちが高揚する

ある時私は何もかも嫌になって家を飛び出したことがある
飛び出した手前簡単に帰るのもなと時間を潰すが、待てど暮らせど迎えは来なかった
拉致でもされた上で、もしかしたら私はもう死んでしまっていると思われていてもしょうが無い
別にそれならばそれでも構わなかった
生きるのは面倒だったからこのまま死のうと決めた時に、何故か私の瞳は涙を流した
そんな時に私の前に現れたのは峯さんで
不器用に笑って手を差し伸べて、帰りましょうととだけ言ってくれた

「私、あの時見つけてくれたのが峯さんで良かったって心底思ったんです」

空を見上げて言う
救われた
帰る場所など無いと思っていた私に、帰る場所を教えてくれた

「死ぬ前にもう一度だけ峯さんに会いたいなって思ってたから」

峯さんに視線を送れば自然とこぼれた笑み
そしたら急に足早に近づいて来た峯さんは私の手首をつかんで公園を後にした




連れてこられたのは誰もいない、峯さんの部屋にだけ電気の灯った事務所
外の音を遮断した空間は静けさが漂うのみ
動くこともせず、掴まれた手首をそのままに入口に佇んでいればデスクの上にカップを見つけた

「紅茶、お口に合いました?」

でも峯さんは何も言わずに黙ったまま

「そうですか...」

温くなってしまったであろう紅茶はもう捨てるほか無い
手首に触れる峯さんの手を静かに解きカップの元へと歩む

「この紅茶、アイスティーにしてもおいしいんですよ」

でもアイスティーにする時は...なんてどうでもいい会話を続けてしまう自分が居た
いつもと雰囲気の違う峯さんに戸惑う自分を隠したい
そして私をここまで連れてきた峯さんが何をしたいのか分からず、怖かった
でも峯さんは私に深々と頭を下げ

『みっともない姿を何度も晒してしまって申し訳ありませんでした』
「峯さん!?」

謝罪を述べた
びっくりして慌てて頭を上げるように言うのだが一向に上げてくれぬ峯さんは

『もう自分に関わらないでください』

必要最低限関わらないで欲しいと続けた




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