その日の夜はどうも寝付けなかった
元から寝付きは良くなかったが、今日は一段と悪い
カーテンの隙間から入る月明かりに照らされた壁掛け時計を見れば4時少し前を指していた
夜中特有の静けさの中に居ると嫌でも冷静になる自分
先日の事や、昨晩の事を冷えた頭で思い返せば実に感情的に、焦って行動してしまったなと悔やまれる
でも一連の行動を無かったことになどには出来やしないのだからため息がもれた

無意識に唇へと伸びた手
確かに峯さんの首筋に触れた唇
こうやって彼に触れた証を求めて手を伸ばしてしまうなんて
私はどれほど峯義孝という男が好きなのか
でももう終わり
峯さんは、私の事なんて1度だって見ていない
それがこの数日で嫌という程分かってしまった
だから私さえ彼を諦める事が出来れば、あの出来事は悪い幻か何かだったと思ってくれるであろう
けど問題なのは私がそれを出来るかである
でも私に残された道は只1つ
可能か不可能かではなく、やらないという事でもなくやるという道しか無い
違う道を歩めば峯義孝という男は私からもっと離れていく


浅い眠りから目覚めると、目の下にできた薄い隈
鏡台の前でため息をつき悪あがきをすれば目立たなくなったそれに安堵した
今日の午後は割かし仕事に余裕があると、昨日の電話の際に片瀬さんに聞いていたので、峯さんに紅茶を届けようかと考えた
帰宅へと促したのは自分なのだが、結局1口も飲んで貰えなかったことに対して寂しい気持ちが無いことも無い
簡単に飲めるようにと、紙袋へティーパックに小分けにした茶葉を数個詰め込んだ



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