言葉の意図が掴めないというように峯さんが怪訝な顔を晒す

『香水の匂いはしませんか?』

峯さんが動くたびに彼愛用の香水の匂いが鼻に強く届く
なぜこれ程までに強く届くのか
それは何かをかき消そうとしたからだろう
その何かを私は彼の口から聞きたかった
今目の前にいるこの人は本当にあの場所に居たのだろうかと
彼が消そうとした匂いは私の思っているものだろうかと

「香水の匂いはしますよ」
『ならどういった意味でしょうか?』
「違う匂いがしませんねって意味です」

私から聞いたっていいのだ
でも聞かないのは私と一定の距離を取る峯さんに近づきすぎないため

『煙草を吸う暇もなくここに来たので』

匂わないかもしれませんねと言われた
まさかのまさかで私は早とちりをしてしまったのか
急に不安になり あぁ、そうなんですか と言う声が自然と冷たいものになってしまった
その時に部屋に運ばれてきたティーセット
折角なので紅茶をいれると峯さんの視線が痛かった

「そんなに見つめられたら緊張します」

クスリと笑うと慌てて目線を外した峯さんに謝られた
彼の目の前にカップを置けばカップへと向けられた視線

「良い茶葉が手に入ったんです」

カップの中の紅茶からはこの種独特の匂いが立ち上がる
どうぞとすすめれば口もとへとカップを持っていく峯さん

「キャバクラは楽しいところですか?」

紅茶をいれている間ももやもやと悩み続けた結果、もう素直に聞いてしまえと意を決して問うてみた

「今日、行ってらしたんでしょ?」
『どうしてそれを?』
「片瀬さんから聞きました」

峯さんに会いに行こうと電話をした事だけはどうにか伏せ、紅茶を1口含むと鼻に届いた香り
気がつけば1口も飲まれることも無く置かれたカップの奥で峯さんの手が拳を握っていた
ただ聞きたかっただけ

「で、楽しい所ですか?」

私が貴方をここに呼び出した事は迷惑で無かったのか

『楽しいですよ』
「そうですか」

やはり私は余計なことをしてしまったみたいだ

「それならこうやってようも無くお呼び立てしない方が良かったですね」
『…』
「峯さんはそういうのは好まない方だと勝手に思っていたので抜けられる口実でもと思ったのですが、楽しいひと時を邪魔してごめんなさい」

表情1つ変えずに謝罪をする
これ以上、峯さんに醜態を晒す訳には行かない

「今日ここにいらして貰った理由はそういうことなので、もう帰っていただいてもいいですよ」

早く彼の前から居なくなりたかった
そして峯さんは邪魔をした私に怒りを感じたのだろう
何も言われず、乱暴に立ち去られたそれは、私にとっては最上級の罰だった



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