『俺は、今この時から必要最低限しか貴女には関わりません』

だから関わらないでほしい

「私が好きだと言ったからですか?」
『そうです』

名前さんが俺を好きだと言った
だから逃れる為に、もうこれ以上傷つきたくないが為に選んだ道
揺らいだら自分が壊れてしまう
壊れてしまう要因があるならそれから逃げ出す
この人が好きだとかこの人が自分を好いていたらいいなとかそんなん全部全部なかったことにすることを選んだ
この数週間でおこった出来事全部全部忘れて逃げることを選んだ
それが1番簡単
苦しくない...それが1番走り出しやすい道
これが1番自分を保つのにいい道

聞こえたカップの割れる音
自分の足元には割れたカップと茶色い液体が飛び散っていた
顔を上げると逆に名前さんが俯いていて顔が見えない
でも手をあまりにも強く握っているのか、血の気が引いて白くなっていた

「やっぱり私を見ているよう…」

ぱりっという音とともに突然自分の背に回った腕
名前さんが自分に抱き着いていると分かった時には自分も彼女を抱きしめていた

暖かい…

全てが暖かかった
その暖かさが俺の口を操る

『俺はやっぱりあんたが怖い』

暖かくて怖い

『俺は俺が怖い』

暖かさを知ってしまった自分が怖い
壊れたくないのに壊れてしまうそれが怖い

『壊れてしま「壊れても大丈夫」

何も怖くはない...私も一緒と言う名前さんは、あの時と同じ首にキスを落とした
そして名前さんの頬に流れる一筋の涙

綺麗だ...

そう思ったら立っていられなくなった
抱きしめながら壁にもたれかかりへたり込む
己の目からも涙が流れた

『愛してくれ』

自分を愛してくれ
飢えたこの心を潤してくれ
悲痛な声となって溢れ出た

『愛してくれ』

何度も何度も溢れ出た
長年溜め込んで目を背けていた愛して欲しいという思いが溢れ出た

そっと包まれる体
優しい匂いに包まれる体
あぁ、時が止まってしまえばいいのに
目をつむりただただ聞こえる鼓動を感じていた




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