今朝、気がついたら2時間が経っていたことに対しての自己嫌悪も仕事の山を片していれば思い出すこともない
壁にかけてある時計は夕方を指していて、外は既に薄暗い
デスクの上には昼食も取らぬ自分を心配してなのか片瀬が持ってきた軽食がある
長時間同じ体制をとりつづけ固まった体を伸ばして解すとドアをノックする音が聞こえた
音の根源はカップを手にした片瀬だった
[会長、お忙しいのは分かりますが少しは休憩してください]
自分が持ってきたものがデスクの上に丸々残っているのを見ての言葉だろう
片瀬は軽食の横に新しく持ってきたカップを置いた
[今日はお泊りになられるのですか?]
『お前はもう帰っていいぞ』
片瀬の問いには答えずに帰宅するように言うが、分かりましたと1礼してドアへと向かう片瀬を止めた
『これ...』
[ついさっき名前さんがいらして紅茶の葉を下さったのですが、珈琲のが良かったですか?]
片瀬が持ってきたカップから漂う香りが、昨夜名前さんに出された紅茶の香りだった
微かに香っただけだが、独特な香りを鼻が覚えている
『ついさっきとはいつだ?』
[10分ほど前です]
『ちょっと出てくる』
椅子に掛けられた上着を手にして飛び出す
片瀬が何かを言ってた気がするが聞こえなかったし興味もなかった
向かった先はここからさほど遠くない公園
名前さんが自分のところに来た帰りにその公園に立ち寄るのだと漏らしていたのを覚えていた
公園に足を踏み入れれば耳に届いた心地よい鼻歌
視界に入ったのはブランコに乗って軽く揺れている名前さん
彼女は公園に足を踏み入れた俺に気づきブランコから立ち上がり笑う
『1人で危ないですよ』
「そう?」
東城会六代目の妹であろう人がこんな時間に1人なんて危なすぎる
「峯さんが助けてくれるから大丈夫」
期待をさせるような事を簡単に言う
「昨夜飲んで頂けなかった紅茶は、峯さんに飲んでいただきたいと思って取り寄せた物だったんでお届けしたんです」
期待からこちらを見つめる目から目を離せない俺に
「私、峯さんが好きです」
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