目覚めると汗をかいていた
普段から寝つきがいい方ではない
だから嫌な夢をみて汗をかくことはあるがこうも大量の汗をかいたのも、汗をもたらした夢の内容を覚えてなかったのも初めてだった
喉が渇いたと寝室を抜け、ミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出し、ごくごくと渇いた喉に水を流しいれると冷たい水が体に吸収されているさまが感じられる
半分くらいのかさになったそれを手にしたままふらふらと寝室へ戻れば床に脱ぎ捨てられたスーツがあった
こうも乱雑に脱ぎ捨てられてるスーツの存在を目の当たりにすると自分の受けているダメージの大きさを思い知る
皺になったスーツをそのままにし、ベッドに腰を下ろしサイドテーブルの上にミネラルウォーターを置いた
まだ薄暗い部屋
今は何時なんだろうとサイドテーブルの腕時計を手にして時を確認してみれば4時少し前
後数時間後には仕事へ行かなくてはならない
ぼーっとする頭は気が付けば名前さんの事を考えてしまう
彼女ばかりを思い浮かべてしまう自分が、なんだかそこらにいる年中発情期な下衆な男共と同等になってしまったような錯覚がした
自分だけはこうはならないとどこかで思っていた
好意を寄せた所で無駄なのだと思っていたから
正直好きという感情も理解できなかった筈なのに
無意識に首へ伸びた手
確かに名前さんの唇がここに触れた
こうやって彼女の触れた証を求めて手を伸ばしてしまうなんて
首じゃなくて唇に触れていたらよかったのにと思うなんて
これが好きと言う事なのだろうか
でももう終わりだ
名前さんは…俺を見ているようで見ていない
彼女の言動を都合よく解釈し、思い上がっただけ

『くそっ!』

乱暴にクローゼットから取り出したワイシャツに袖を通す
此処でじっとしていたら自分はどんどんおかしくなる
自分の知らない自分になってしまう
事務所に行き、仕事をしていれば何も考えなくていい
そうすれば何も変わらぬことも無く自分のままで居られるのだ
サイドテーブルの腕時計を腕に付けようと掴む
視界に入った短針と長針はすでに6時を指そうとしていた




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