「6分っ!1、2、3…」

バインダーを小脇に抱えストップウォッチの目盛りを読み上げる
目の前を通過していく部員たちからはキラキラと汗が滲んでいた
やはり今年の春はもうここにはいないなと空を見上げると眩しすぎる太陽
うえぇ眩しいと首にかけてあったタオルを頭から被る
そして早々に1周走り終える部員たちに再度ストップウォッチの目盛りを読み上げた

「ちゃんと水分補給してくださいね」
『あぁ、助かる』

走り込みのメニューを難なくこなす体力を持っていたとしても、脱水や熱中症は怖い
本日のメニューの半分を過ぎた辺りで少し日は沈んだがそれでもまだ暑い

[名前、俺にも!]

誰よりも早くトラックを10周した牧さんは優雅に私が渡したスポドリを口にしていたが、信長はゼーゼーと肩で息をして膝に手を置いていた

「これが帝王と野猿の違いよね」
[お前心の声出てるからな]
「あら失礼」

そんなやり取りをしていると信長に頭からかけていたタオルを奪われた

「ちょっとやめてよ!汚い」
[汚いとはなんだよ汚いとは!]

私の唯一、陽射しからお肌を守るアイテムが目の前で汗によって汚されていく
直射日光暑い痛い焼ける
こりゃ参ったとジャージの中に忍ばせていた日焼け止めを取り出し顔に塗りたくるが心もとない
部室に戻れば予備のタオルがあったはずだ
でも取りに戻っている時間はないので、こういう時のためにいっそ日傘でも置き傘しておこうかと真剣に考えた時
ふわりと頭に舞い戻ってきたタオル

『いいタオル置きを見つけたなと思ってな』

ポンとタオル越しに置かれた手
タオル置きなんてとんだジョークだ

『再開するぞ!!』

それでもパンパンと手を鳴らしながら指示を出す背中を見つめてしまえばときめく胸に気が付かずには居られない

「牧さん優しい、好き」
[だから、心の声出てるからな]
「大好きだからしょうが無い」

あー、そうですか とつまんなさそうにする信長は、もう息が整っていてトラック10周なんて走ってませんみたいな顔してる
流石野猿

「牧さーん、信長はダッシュ5本追加しましょー」

頭のタオルが飛ばないように手で抑えながら駆け寄ると、牧さんはちらりと信長を見てふっと笑う
そして10本追加なと言う時は意地悪な顔してた

[ちょ、そりゃないっすよ!!]

キーキー叫ぶ信長が可笑しくて笑うと耳元に感じた熱

『タオルの仕返しこれでいいだろ?』

牧さんが体を折って内緒話の様にしてくるから、耳にダイレクトに聞こえる落ち着いた優しい声がくすぐったい

「牧さん、大好き!!」


心が溢れかえってしかたない


あ、間違えました
大満足です!!



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