別に最初から強かった訳じゃない
強くならなければ生きていけぬ世界だったから嫌でも強くなった
それなのに気がつけば人は私を恐れた
「喧嘩売るならもう少し頑張ってよ」
どうやら私は面倒なやつに目をつけられてしまったらしく、命を狙われている
数年前に何でも屋をやっている私に依頼された仕事
内容はあるお屋敷の中に飾られている絵をこの世から消し去るということ
消し去る絵は、依頼主が若い頃に描いた見るも絶えない駄作なのだが、持ち主の屋敷の主人に何度も返してくれるよう頼んだが返してくれないので、最終手段として私の元へ来たのだ
簡単な仕事だったのだがへまして顔を見られたのが最後、こうやって未だに絵を奪われた恨みを晴らそうとしているらしい
だからって簡単に私は殺れない
『お前か、悲痛っていう絵燃やしたってのは』
「あいつに雇われたの?」
でもある日、私の写真を手に現れた男は今までの奴らとは一風変わった雰囲気を持っている
腰に3本の刀を携えた男
その男を私は知っている
「私、海賊じゃないわよ」
『らしいな』
海賊狩りのゾロ
力量のほどは分からぬが高額な懸賞首の海賊をもとらえているという
『俺は金がもらえればいい』
「下衆」
一気に距離を詰めて1発拳を向けると軽くかわされた
立て続けに蹴りも入れるが軽く受け止められてしまう
「離して」
『離したら捕まってくれるのか?』
「んなわけないで…しょっ!」
捕まれた足を軸に体をひねってもう片方の足で顔めがけてけりを入れる
『ッ!』
かわされたが靴底に忍ばせたナイフがほほに傷をつけた
その隙に距離をとる
戦闘慣れした頭が弾き出したのは、近距離戦は不利
私は使用する武器を特定せずに、戦う相手によって近距離遠距離を使い分ける
遠距離用の飛び道具に手をかけた時
[見つけたぞ糞女]
背後に私の首をずっとずっと狙っているあの男が居た
『なんだ、俺に頼んでおいて自分で来たのか?』
[お前はただのおとりだ
こうやってこいつの注意を引いて、背後から俺が攻撃する]
日中でも暗い森の中で微かにそそぐ光が男の顔を照らす
あぁ、気色が悪い
にやりと笑う男の手には砲煙を漂わせた銃が握られている
言葉のとおり男は海賊狩りに気をとられていた私を背後から撃った
撃たれた肩口から徐々に血が出ては服を染めあげる
[痛いだろ?動かせないだろ?
俺はあの絵が本当に気に入っていたんだ
女が泣き叫ぶ恐怖の表情が気に入ってたのに、それをお前は盗むだけに飽き足らず俺の目の前で燃やした]
「描いた本人がそう望んだのだからしょうがないだろ」
こんな傷何ともないけれど、それでもいつも通りの動きはできないだろう
この男が銃を持っていたとしても1人なら何ともないが、海賊狩りがいる
ピーピーピーと警告音が脳内で鳴り響く
2人同時は危険だという警告音だ
その信号を受けた私は迷わず選ぶ
[死ね!死ね!死ねええ!!]
自分に向ってくる私に驚き顔は引きつり、狙いも定まらずただただ発砲しているのみのものが当たるはずもなく
「能力もないくせにしゃしゃり出てくるから死ぬの」
だからって能力あるものを金で操ってというのもどうだと思うけどと迷わず男の喉を掻っ切った
そしてすぐさま海賊狩りに向き直り、遠距離用の武器へ手を伸ばすが、目の前の男からは一切の戦闘意思が見受けられない
『お前がそいつ殺したから、お前を殺しても金は手に入らねぇ』
金にならないなら戦う意味もないというこの男の言葉も分かる
別に最初から私に直接何かを抱いていたわけではない
ただ金のために動いていたのみ
『傷みせてみろ』
「えっ」
『肩なんて自分で手当てできるのか?』
できなくはないがやりにくいではあろう
だからってすぐにはいそうですかと言う訳もなく拒絶をしたが
『お前女の癖に無茶しすぎなんじゃね?』
顔も腕も足も肌が見えているところには無数の傷跡がある
そのことをきっと言っているのだ
でも仕方がないだろう
そういった所でしか生きていけなかったのだからしょうがないだろうと何も言わずに睨み付ければ
『悪くねぇ顔してんのにもったいねぇぞ』
こいつは馬鹿か
何を言っている
自分の顔が熱くなるのが手に取るようにわかる
気が付けばふざけるなと叫んで、静止の声も聞こえず走り逃げていた