今夜の宴は、ルフィがいつもより更にはしゃいでいた。
あの笑顔を惜しみもなく綻ばせているのをほっこりした気持ちで眺めた。
「ゆずチャンは酒好きなんだな?」
ルフィに和みながら呑んでいると、隣から声を掛けられた。
彼もまた、ルフィと似たような笑顔を見せる人。
「あ、エースさん。うん、お酒は大好きですよ。」
「さん付けとか気持ちわりぃし敬語もいらねぇよ。」
にやり、と笑って。よっ、と隣に腰を掛ける。彼の体温の高さが空気から伝わって心地好い。
話しは少し戻る。
航海中にフラりと現れた一人の男性。みんなは知っているようだったけど、あたしは初対面だったわけで。
「ゆずは初めて会うよな!ししし、おれの兄ちゃん!」
そうルフィに紹介された。
名をエースという。その人物を見ればよろしくなと差し出された手。ニカリと笑った笑顔がルフィのそれと少しダブった。
それからもう、ゆっくりしていけとおもてなしの宴が自然に始まった。
ルフィの笑顔がいつもより多いのは彼がいるから。
「ふふ、じゃあ、エース。あたしもチャン付けしないで?」
「お、そうこなくちゃな、ゆず。」
ダブるけど、色気がある彼。
半分減っているグラスにお酒を注ごうとすれば、残っている分を煽ってグラスを差し出した。お、わかってるなこの人。
空になったグラスに改めてお酌すれば、もっていた一升瓶をエースに奪われる。
その意図に気付いてあたしも彼に習ってグラスを空ければフ、と微笑まれた。
「くぁ、美人に注がれる酒は格別だな!」
「やだエースったらお上手。」
どちらともなく、なぜかわからないけど一気に呑み干し、お酒の席でのお約束染みた会話。
そんなくだらない会話すらも、酔っぱらってしまえば楽しいものだ。お約束にパシン、と肩の辺りを叩いておくのも忘れない。
二人で顔を見合わせて小さく吹き出した。
「つーか、マジで。ゆず、おれのオンナにならねぇ?」
また、酒を注いでいれば。
聞こえてきたお約束の絡み方。なんだエースは飲み屋通いでもしてたのだろうかやけに手慣れたように言ってくる。
少し傾けられたグラスの角度といい、お約束の会話といい、そこはルフィと違って手練手管なのだろうか。
「やだ、モテる男の彼女とか考えただけで胃に穴が開きそう。」
「ちぇ、ツレネーのな、」
また笑い合って、酒を注いでくれる。なんてことない酒の席での絡み。お互いにそれを楽しんでいるだけ。
ああ、こういう呑み方も、久しぶりだからか楽しいな。
お約束の駆け引き。
(エース!!ゆずはおれのだ!渡さねぇからな!)
(あ…ルフィ、これはね、冗談…、)
(お、もしやルフィ……ほー、おまえにもそうゆう………おもしれぇ。)
(なんだよ!つーかゆずも!エースはおれの兄ちゃんだからな!)
(え、あ、あー…、ごめん?)
(いやまてルフィ、間違っちゃねぇけどなんかそれ誤解与えちまうから。)
(…そうか、焼きもちやいてたんだね、かわいい弟ね。大丈夫。あたし偏見ないから。頑張って!)
(ゆず、たしかに大事な弟でルフィにとってもおれは大事な兄貴だろうが、ちょっとまて。おまえぜってぇ変な方向に勘違いしてる、)
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