平和に乾杯。 | ナノ





船の上では静かに、しかしまことしやかに戦争が起こっていた。
ちなみにこれは、いつものこと。上陸前に起こるもはやもう恒例となった戦いだ。
参戦者の主張は以下の通り。


「ゆずならこないだおれと冒険行くって言ってたぞ?」

島に着いたらまず冒険だろ食いもんだろなルフィ。恋愛感情はさておきとりあえず楽しいからゆずと出掛けたい。


「酒買いに行くっつってたから今回はおれだろ。」

散歩ついでに酒買いに行きてぇ剣も見てぇなゾロ。彼女とあーだこーだ言いながらする買い物は睡眠よりも大切だ。


「また市場案内してって言われたからおれと行動するに決まってるじゃねぇか。クソゴムとまりもはすっこんでろ。」

大食いの船長のおかげで大量の買い出しに行くけど市場に出向くそれもまた楽しみなサンジ。だがたまには可愛い彼女とデートしたい。いつか一緒に廻った市場。とにかく楽しかったからまた行きたい。


「ばかねぇ。ゆずはそろそろ春服買わないとダメだってぼやいてたから今回はわたしとロビンと行動するわよ。」

あんたたちいい加減にしなさいよゆずと出かけるのはわたしよお小遣い減らすわよ。ナミさんそれは勘弁してあげてください。職権濫用バッチコイ。


と、こんな具合にゆず取り合戦になるわけだ。ちなみにロビン、ウソップとチョッパーは戦線離脱。しかしたまにゆずからお誘いを浮けることもあるので試合に負けて勝負に勝つという日もあり。


「すまねぇナミさん…!!おれは世の中のレディを愛してる!!そこは間違いねぇんだが!!……これだけは譲れねぇんだ!」


男にはやらねばならぬ時がある。今こそその時なんだと拳を握るサンジ。世の中のレディよりも頭ひとつ飛び抜けて大事にしてやりたいと焦がれる彼女にはライバルがいっぱいだ。

参加者たちが話し合って勝負を着けてもゆずが名指しで誘えばそれは水の泡になるわけだが、この試合が無駄なことだとは感じない。なぜならこっちから誘えば彼女は大抵了承してくれる。それなら誘う権利をてに入れたいのは自然の摂理。ただし例外アリ。ナミのショッピングは毎回付き合えないらしい。(量が半端ないから上陸毎に行く意欲は湧かない。)

火花を散らすキッチンで、テーブルにある桜の緑茶が冷えようとしている。そろそろ勝敗を着けたいところ。何しろあと数時間で上陸する。

ドン、とルフィが机に手を置き鳴らし、くるりとみんなを見渡した。

握った拳は気迫が漂い、波打つように各々もそれに習う。


「よし、やるか。」


キュッと結ばれた唇から、気合いの入ったことばが飛び出し引いた拳が前に出た。

今、戦いの火蓋が切って落とされた。




「じゃんけん………!!」


「みんななにしてんの?」


ぽん、と言う前に審判の笛。男たちの真剣勝負(じゃんけん)に水を差したのは他でもない、賞品の彼女だった。


「…何のじゃんけん?」


たかがじゃんけんにやけに気合い入ってるなと若干引き気味のゆず。そりゃそうだ仕方ない。まさか自分とのデート権を賭けての勝負(じゃんけん)だなんて素直に言えない。純情な感情をもて余した十代の恥じらい。いや、別に、なあ?ええ別に、ねぇ?ふふふふふ。誤魔化しきれてないのは気付かない方向で。


「ゆず、上陸したら冒険いこうぜ!」

「「「ルフィ!」」」


十代の感情も試合も全部すっ飛ばしてまさかの豪速球。直球も直球ど真ん中。我らが船長は素直なところも長所です。(余談だけどきっとゾロはピッチャーには向かない。筋金入りの方向音痴は投球にも表れる。全球ボールに違いない。)


「なんだよおめぇら!」

「なんだよじゃねーよ抜け駆けすんな!」


そうだそうだと野次が飛ぶ。
話に着いていけない彼女は置いてきぼりの観客席。もちろん手にはお酒もバッチリ抜かりはない。


「めんどくせぇーな、ほんじゃ今ゆずに決めてもらったらいいじゃねーか!」


正に鶴の一声。
ルフィのことばにピタリと止む。
状況はよく掴めないけれど何だか自分が決めなきゃいけないらしいと重大(?)任務に背筋が伸びるゆず。

目の前に四人が並ぶ。真剣な表情を崩さない美男美女、目の保養。


「ゆず!」

「はい!」


異様な空気に呑まれる彼女。


「「「「おれ(わたし)と一緒にお出掛け(冒険)(買い物)しよう!」」」」


微妙にバラバラなことばに戸惑った。何だこれは。公開告白みたいだ。相手が自分の目の前に来て愛の告白、そしてお願いしますと手を伸ばすアレに見えて仕方ない。

手は伸ばされてなかったものの、すごく感じる熱い視線。もう一度言う。何だこれは。


「……え…?」


デートのお誘い。まさかこれのためにじゃんけん?いやいやそんなばかな話があるか?


「もう少しで島に着くだろう?ログが溜まるまでの間、誰がゆずちゃんと出かけるかって話になってさ。」


タバコに火を点けて、困惑した彼女に説明する。この説明も何だか恥ずかしい。煙を吐くと同時に少し目線を反らした。だってカッコ悪いしやっぱり恥ずかしい。
彼女は、それでもよくわからないと言った表情を浮かべる。



「あ!そうそう!!それなんだけどさ!」


困惑した感情を忘れたように声を張ったゆず。表情はうってかわって輝いている。

いよいよ決断が下されるのか。さあ誰が選ばれる!?緊張の瞬間が走る。



「さっきロビンに聞いたんだけど、次の島、温泉名所があるみたいだからみんなで旅館行こうよ。船も停泊できる場所あるみたいだし!一泊くらいならいいでしょ?」



キラキラキラ。この顔で誘われて誰が断れようか。いるはずない。

今回の勝負、彼女のことばで呆気なく終戦。ドローということで片が付いた。



「温泉!いいわねー、久しぶりに広いお風呂でゆっくりしたいわ。」

「露天で熱燗か、最高だな。」

「旅館かー、うめぇもんいっぱい食わねぇとなー!」

「ゆずちゅわあん、もしかして混浴もあったりするかーい?!」


二人で出掛けることは叶わなかったが彼女の嬉しそうな顔が見れればオールオッケー。
先ほどの戦いなど忘れたように温泉旅館に楽しみを膨らませる。

テーブルにある緑茶はすっかり冷めていた。










デッドボール。


(あぁもうゆずったら!しょうがない、隙を狙って買い物連れて行ってやる!)

(冒険もしたかったけどなー、まあいいや、美味い飯いっぱい食えるし!ゆずも楽しみにしてるしな、ししし!)

(風呂上がりの浴衣で酌か。……よし、今日は寝かさねぇ。)

(混浴、浴衣、クソたまんねぇなぁおい!!ぐふふふふ、(妄想中))


(あのじゃんけん何だったんだろ?)






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