冷たい風に乗って潮の匂いが香る。気温が低いからか、鼻に入る空気が少し痛い。紛らわすように煙草を吸うけど、全然紛れない。
あたしのまわりに煙が漂って、心地好い感覚。
煙が空気に乗って、ゆらゆら、ゆらゆら。
煙草を口にくわえたまま両手で冷えた肩を擦ってみたけど、効果はない。
「………寒い。」
あいにくの曇り空。どんよりとした分厚い暗い雲が空には広がってて。雪、降るのかなぁって思った。
「さみぃだろ、そんなとこいたら。」
うしろから足音が聞こえたと思ったら、ルフィがおやつの肉まんを食べながらやってきた。
ハムスターみたいに頬いっぱいに詰め込んで、モグモグと動かしている顔に小さく笑った。
可愛いな、癒されるなーなんて思って。チョッパーとは違う癒し。単純に、その顔が可愛いなって。
「ん、寒いけど煙草はここで吸いたいんだよね。」
「ほーいやおまえいっつもここで吸ってんなー。」
そう、あたしはいつも甲板で吸う。別に室内で吸ってもいいんだけど、なんとなくね。
日本は喫煙者が肩身狭かったから、変にくせがついてるのかも。
「お、そーだこうしてたらおまえ寒くねぇだろ?」
そう言って、あたしの背中に回るルフィ。
背中からじんわりくる温もり。あったかい体温が伝わってくる。
手すりにその両手が左右に置かれて。うしろから、囲まれている状態。
「………あー、確かにちょっとはあったかいかな。」
「ししし、だろ?」
名案だろ、って得意気に笑うルフィ。でもこれって結構恥ずかしい。ルフィは全然気にしてないんだろうけどさ。
「でもルフィ、煙たくない?」
煙は風に従ってルフィの方に流れるから。
もろに煙は顔面にかかるはずだ。
「いんや、平気。つーかゆずがなんかさみしそーだから。囲っといてやるよ、ししし!」
うしろすがた。
(なんでゆずの背中はこんなにちっちぇえんだろ、)
(風に飛ばされそうだ。)
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