平和に乾杯。 | ナノ





ゆずの顔がわかりやすく輝いているのは珍しい。
ま、それもそうか。


「〜っ!!ナミ!!あたし頑張ってくるからねー!!」

「任せたわよ!!」


つい先ほど上陸した島。でけぇ島で、カジノもある。つーかギャンブル場がわんさかある。あと酒場。(…ちくしょう、呑みに行きてぇな。何でまたおれが船番なんだ。)

つまりそれは、海賊もうじゃうじゃいるわけで。

危険と隣り合わせなんつーことはこれっぽっちも考えてねぇんだろなと思う。
現にナミは親指をグッと立て、満面の笑みでゆずを送り出したし、(それでも気を付けてと言ってたが)それに答えるようにゆずもまた満面の笑み。

万が一戦闘になったってそう易々とやられはしねぇだろうが、おれが気になるのはそこじゃねぇ。

贔屓目でも何でもなく、目を引く容姿のあいつにしょうもない野郎共が群がるのが容易く想像できるわけで。

大丈夫かよ、と思いながらもおれは目を閉じた。チッ、何でこういう時に限って運悪く船番なんだ。

いつも船番の時は大抵寝る、もしくは鍛練、なんだが。

……目を閉じたものの、今日は寝れそうにもない。仕方なく起き上がり、街の方を見ながらダンベルを上下に動かす。

まだ誰も帰ってこねぇ、なんて考えても、まだそれほど時間も経ってねぇし。
大抵戦闘だとかルフィが騒ぎを起こしたとなったら派手な音が聞こえるだろうがそれもなく、とりあえずは安心する。


(………ひまだな。)


ダンベルは変わらず動かして。


(酒、買ってきてくれっかな。)


つまんねぇことを思って。


(…ゆず、絡まれてねぇだろうな。)


結果、またそこにたどり着く。
集中力が途切れ途切れになり、むしゃくしゃする。
しかし船番を放棄するわけにもいかねぇしな。誰か帰ってきたら交代できるのに。こんなことを思う日に限って誰も帰ってこねぇし時間が経つのが遅ぇし。

そう思いながら、することもねぇからダンベルの重りを増やす。………しばらくはこれで時間を潰すしかねぇしな。


「たーだいまー。」


街の方をぼんやりと見ていたら下から聞こえた声。
間延びしてやけに嬉しそうに声と表情を弾ませていて、一瞬で意識がそっちに戻る。

下を見れば待ち人がいて。


「おう、早かったな。」


これっぽっちもそんなこと思ってねぇのにな。本当はゆずが帰ってくんのをまだかまだかと待ってた自分なのに。


「ゾロがさみしい思いしてると思って早く帰ってきた!」


にこりとゆるく笑って、数々の戦利品を両手に掲げる。
船に上げてやるのを手伝うために降りて。その間おれは顔のにやつきが誤魔化せねぇでいて。


「ハ、誰が寂しいなんて言ったよ、」

「ん?……勘だね。」

「おーそりゃすげぇ鋭い勘だな。」


軽口で交わした会話の下に本音も混ぜる。
……つーか酒買いすぎだろ、どんだけあんだよ。


「えーなに、本当に寂しかったんだ。」

「あ?!んなこと誰も言ってねぇよ…!」

「ふーん?」


ニヤニヤしながらおれを覗き込んで見てくるゆずに咄嗟に顔を反らす。
やべぇ、冗談じゃねぇ軽口だったから顔に出ちまう。


「……あーもー。こっち見んな。」

「…めっずらしー。まじで照れてんじゃん。」








こっちみんな。


(今日は短時間集中でがっぽり稼ぎました!)

(ハ、さすがえげつねぇ。)

(まあ、誰かさんが寂しかったみたいだから早く終わらしたんだけどね?ニヤニヤ)

(……うるせぇ。ニヤニヤするな!)




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