ゆるく笑う笑顔が印象的だった。
キャンディーの様なクリッとしている瞳を、三日月形にして小さく肩を揺らす。その華奢な身体を抱き締めたいと常日頃頭に過る。
「……どっ!!どうしたんだい、ゆずちゃん!?」
「あ…、っ、…。」
昼飯が終わって、片付けが終わって部屋に戻る途中。
ミカンの木の下で静かに涙を流すゆずちゃんを見付けた。
いつものクソ可愛い笑顔の欠片もなく。ただ重力に逆らわずに流れるそれは、高級な調味料みてぇに見えて。
ああ、あれを料理に垂らすだけで甘美な味に変わるんだろうなと変な思考が浮かび上がる。
おれが焦って声を掛けると、小さくビクリとして。ゆるゆるとこちらを向いた顔はクソ情けねぇほどにか弱い、オンナ、で。
レディ、じゃなくオンナ。
何を思って泣いているんだい?
その涙は、おれのために流してくれる日がくるのだろうか。
「ん、ごめんね、別に何かあったわけじゃなくてね。」
「……それなら、いいんだけど。」
泣いていた理由なんて。
どう考えても、元の世界のことでしかないだろう。
わけもわからねぇまま投げ出されたこの世界で。
いつも笑って生きている。
でも内心の寂しさは。それはそれは想像もつかねぇくらいのもんだと思う。
笑ってる顔を見て強いなぁと感じて。
泣いてる顔を初めて見て、改めて思ったのは、守ってやりてぇという感情。
それでもきみは、おれだけじゃなく、みんなが守ってやりたいと思うレディだから。無理しないでほしい。素直に頼ってほしいんだ。
でも、おれの胸だけで泣いてほしいとも、思っちまう。
「違うの、これ、」
「いや、無理しねぇで。」
「………ん、あー、……まぁね、色々考えるわけよ、」
「うん。」
「そしたらね、………こんなことに。」
「…あぁ、」
おれは今この溢れ出る気持ちを抑えるのに必死だ。
だって、ちゃんと話してくれねぇんだ。
曖昧に濁すまま。それでもニュアンスで読み取るけど。
けど。
仕方ねぇことなのかもしれねぇけど。
やっぱりそれがさみしいんだ。
彼女の頬を流れていた涙はもう止まっていた。頬を指で拭いながら、バツが悪いようにくすりと笑って。
「あー、ごめんね。」
「ん、ゆずちゃん、」
「…え、ぁ、」
「……別に泣くことは悪いことじゃないさ。こういう時は、泣いていいんだから。」
謝罪のことばが聞きたいわけじゃねぇし。
泣いていいから。
無理して涙を止めねぇで。
だからせめてうでのなかで。
スーツに染み込んでくる涙さえ、他のやつらに見せたくないと思う。
素直に涙を流しはじめたゆずちゃんを、おれはただ片手を肩に添えるだけに留めて。
いろんなものを誤魔化すように火を点けたタバコは上手く肺に入らなかった。
なぐさめてよ。
心の声が聞こえた気がした。
行き場のない感情。感付かれたくないと思うプライド。
全部全部、
おれに染み込ませて。
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