お酒と煙草を大量に購入し終えたあたしは、みんなより一足早く船に戻ってきた。
船には船番のウソップ。あとキッチンにはサンジが夕食の仕込みをしていた。サンジにただいまと声を掛けて、買ってきたタバコのストックをキッチンの戸棚に置いて。
トンカチを持って忙しなく動くウソップの元に寄っていった。
「ただいま〜。…ウソップ、船の修理?」
「おお、早かったな。…こないだの嵐で、少し傷ついちまったからな。今直し終わったばかりだぜ。」
「そっかあ、お疲れ様だね。」
ふ〜、と腕で汗を拭いながら、直した部分を右手で撫でる。ウソップがこの船を、仲間の誰よりも愛していることは重々伝わっている。
どこか懐かしむ様に「早く良くなれよ。」と、呟いた彼は、くるりとあたしを見て口を開いた。
「おれは船大工じゃねんだぜ?」
「知ってるよ。」
「…この船は、カヤがくれたんだ。」
「あ、ウソップの想い人だよね。」
ああ、と呟いてまた傷の部分を愛しむように撫でるウソップ。その横顔は、いつも笑って怒って泣いてとくるくる変わる忙しい彼の表情のどれにも当てはまらなかった。
カヤさんの名前が出たからホームシックになってるのかな。
その顔を見てるとあたしまで寂しくなってくるよ。
「…ウソップ、海の上ばかりじゃなくてたまには海の中入ろう!」
「え!?…おおおおおいぃぃぃ!」
「ほら、行くよ!」
寂しい気持ちを紛らわししたくて。
ガバリと上着を脱ぎ捨てて、キャミソールとショートパンツの格好になり、船の手すりに立つ。……おお、思ったよりも高さがあるなあ。
後ろでウソップが、おまえっもっと恥じらいというものを持てよっ!と顔を赤くして焦っている。うるせ。
「ほら、早く脱げ!」
「だからあぁぁ!!ゆずさんんん?!おれっサンジに聞かれたらオロされるから慎んでくれ!」
「何いってんの。降ろされるわけないじゃん。」
「ちげぇえええ!」
よくわかんないけど焦ってしょうがないウソップを、ほら早く早くと急かしてみる。
突然過ぎるあたしの行動にウソップは、顔を赤くしたり青くしたりと狼狽えているばかり。
うん、あたしも唐突だとは思うよ、でも反省はしてないから。
海に飛び込む気満々のあたし。
それを阻止しようと必死の彼。
なんて正反対。
「ゆず、この辺はデッケー鮫がいるんだぞ!つーかおれは海に飛び込んだら死んでまう病気で、」
「大丈夫!もう、焦れったいなー!先に行くよ?」
「……うおおおおいいい!」
いつまで経っても脱ぎやしない。
ええい、もういいや!
ピョン。
手すりから足を離す。
あとは海に落ちるだけ。
海に入る直前、顔を真っ青にしたウソップと目があった。それににこりと笑って。
バッシャーン。
瞬間、身体中に冷たい衝撃。
うーわー、気持ちいい。
ぷはっと顔を上げたらウソップが覗きこんでいて。安堵の溜め息を漏らしたのがわかる。
そしてあたしに向かって叫んだ。
「ばっかおまえ!いきなりあぶねえだろう!」
いきなりじゃないもん、ちゃんと行くって言ったもん。
「ねえ!ウソップ!」
「何だよ!」
「ウソップは、勇敢なる海の戦士になるんでしょ!」
「…ああ、そうだよ!」
ウソップの怒声も何のその、軽くスルーの方向で。あたしはウソップに負けないくらいの大きな声で叫んだ。
「こんなに海は気持ちよくて、広くて、誰でも受け入れてくれるから!だから、飛び込んでおいでよ!」
「!!!」
「鮫もいないよ。」
少しだけホームシックになっていたのは予想通り。
突発的な行動を取ったのには理由がある。遠回しだけどウソップに元気になってほしくって。
何気無い言葉の裏には深い思いを含んでいるけど。彼に伝わったかな。
俯きかけていた目を空に戻してあたしを見る。
そして一言。
「この!ウソップ様に!怖いものなんてなぁ〜い!」
腰に手を当てポーズを取って、勇敢に海に飛び込んだ。
「あ、鮫だ。」
「ってマジかよおおおゴボボゴボ、」
「あはは、ごめんうそだよ。」
「ごめんとか思ってねぇだろ!…それにしてもつめてぇ…!!」
「ははは、楽しいね!」
不器用な慰めかたかもしれない。けど、やっぱり笑ってほしいから。
深い思い、それから海。
(よっしゃ、とりあえずサンジ呼ぼう。)
(ロープも垂らさねぇまま海に入っちまったな。)
(は!てめぇクソっ鼻あああ!!なんでてめぇがゆずちゃんと海水浴なんぞしとるんじゃあああ!バッシャーン、)
(ちょ!誤解だってゴボボゴボゴボボゴボ)
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