「ちょっと!こんだけ買うんだから少しくらい安くしてよね!」
「………ナミ。」
金の亡者……ゴホンゴホン、いや、我が船の金庫番、腕は確かな航海士と初めて行くショッピング。
彼女の服の数を見れば、買い物が大好きなんだなということは一目瞭然。でもまさかこんなに一気に大量買していたなんて。しかもまけろと啖呵を切るナミを目の当たりにしてちょっとびっくり。
可愛い顔してあのこ、割りとやるもんだね〜と。
「安くしてもらえた?」
「ちょっとだけね。」
「そっかぁ。」
少し不満そうではあったけど。ナミの交渉術に拍手を送りたい。それでもこういうお金を少しでも浮かせて船の金庫をやりくりしてるんだなと思えば、感心に変わるものだ。
「さ、次行くわよ!ゆず!」
「……え、まだ買うの?!」
「当たり前よ!ここ物価安いし、あんたも買っておきなさい。」
先程の感心を返しておくれ。しかも物価安いってわかっていながらあんなに交渉してたんだ!?………まあいいか、ナミだし、うん。
「うーん…服なら沢山あるしなあ。」
「あ、水着買いに行きましょ!」
「みみみみみみずぎ、ですか。」
暗に買い物はもういいよーと言ったつもりなんだけどな。わかってたけど無視だよね。
それにしても水着って。ナミのボインを目の前にしたら、とてもじゃないけど買えないです。無理無理、辛くなるって!
「行くわよね?」
「あー水着欲しいと思ってた、うん、行こう。」
若干凄みのある声を出されて、返事はイエスかハイしかなくなったのは仕方ない。そして棒読みになったのも仕方ない、うん。…あれ、何だか目が霞んできた、可笑しいな。くすん。
「きゃあ、これ可愛い!」
「………面積狭いよ。」
次々とあてがわれる色とりどりの水着。ナミの選ぶ水着はハイセンスだけど、際どい物ばかり。てゆーか何故あたしに。自分の選べばいいじゃないか。
「わたしのはもう決まってるから。」
「…さいですか。」
そんな考えが顔に出たのか、ナミはあたしに言った。……いやだから、そんな笑顔で持ってこられても着ないから!着れないから!そんな面積狭いの!ヒモが糸みたいに細いよ?!
「ナミ〜ビキニはいいとして、もうちょい隠れるやつがいい。」
「ゆずは細いんだから、出した方がいいのよ!」
「えぇぇぇ。」
またもやあたしの意見は無視ですか?もういいや、好きにしてくれ…と諦めた。
ああ…またナミが新しい水着を持ってきたよ。そうですあたしはナミの着せ替え人形。
「ほら、そんなに言うんだったらこれなんてどう?ゆずに似合いそう。」
しょーがないわね、と手にしていたものは、ビキニだけど胸元にフリルが沢山あしらわれていて、甘くない色の真っ青な水着。下はデニムのショートパンツ付きだ。
これならフリルがついていても、可愛すぎずに爽やかな雰囲気だ。
「……あ、可愛い。」
それを受け取って、鏡の前であててみる。
「うん、可愛い!これなら上にパーカー羽織るだけで普段着でもいけるじゃない!」
「えへ、そうだね。」
早速レジに持って行き、試着をしてみた。水着に合わせて白のパーカーを持ってきてくれたナミは、可愛い可愛いと褒めてくれた。やっぱりナミは服が好きなだけあってセンスがいいな。水着もパーカーもお買い上げー!
水着を買ったら次はサンダル買いに行きましょう!とまたもや引っ張り回されて、夕刻になってから船への帰り道。
両手は沢山の荷物でいっぱいだ。勿論ナミの分もあたしが持っている。
「サンダル、いいのなくて残念だったね。」
「そうね〜ま、いいのよ!」
ナミの目に叶ったものは残念ながら見つからなかった。しかしそれでも満足できたショッピングだったわ!と終始笑顔を見せていてくれた。
「こうしてゆずと二人でショッピングできてよかったわ。」
「ん?あたしも楽しかったよ、久しぶりに買い物したし。」
にこり。と、やっぱり女の子は買い物好きだよねと微笑む。するとナミはあたしに向かって言った。
「女同士なんだから、もっと楽にしていいわよ。またストレス発散にショッピング行きましょ!」
「………ナミ。…ありがとう。」
(ナミの優しさだったんだ。)
この船に乗ってから、ナミの誘いを何度か断ってきた。それは勿論嫌とかではなく、本当に物欲がなかったからであって。
ナミはこうして女のあたしに、息抜きできるように気を使ってくれてたんだ。
そう考えたら、ナミの無茶苦茶な買い物も、少し強引に引っ張るのも、可愛く感じた。
(ほんと、年下なのにしっかりしてるな。)
ぽやっとナミの後ろ姿を見ながら、少し余韻にる。
その細い肩に、もうちょっとだけ甘えてみようかな。
「ナミ!昨日美味しいお酒買ったんだ。ロビンも誘って呑もうよ。」
「…!…いいわね。サンジくんにおつまみ作ってもらいましょ。」
悪戯に笑う女の子。
(帰ってファッションショーね!)
(……元気だね。)
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