平和に乾杯。 | ナノ




この世界に来て何度目かの朝がやって来た。




窓の外を見ればまだ少し薄暗い。夜明けまで一時間はかかるだろう。
いつもはナミかロビンの優しい声で起きるのだけど、今日は違って。何となく誰かに起こされたような気がする。夢の中で、の感覚だけれど。だからこそ曖昧で何とも言い難い感触がまとわりついて、モヤモヤとして気持ち悪い。それを振り切るように、二人を起こさないように静かに女部屋を出た。

…ここに来て初めて寝起きは最悪だ。


「うー、寒っ、」


季節は冬ではないけれど、やっぱり朝方の海の上。ひんやりとした空気が漂っている。
薄いストールを羽織って甲板に立つ。
あたしにはうっすらと掛かった霧が、この先の航路にどう影響するのかわからない。潮の匂いも新鮮だな、なんてぼんやり思う。船の上での生活はまだまだ慣れない。揺れる感覚を誤魔化す為にと最もらしい理由をつけて毎晩のようにお酒呑んでいたりする。(…いや、それがなくても呑んでるな。)

みんなとの距離はまだグンと近くなったわけではないけど。
ただ、優しいみんなとの共同生活は思ったよりも快適ではある。

……何であたしはここにいるんだろう。

疑問は離れることはない。

ああ駄目だ。今日は朝からモヤモヤしぱなっしで胸焼けに似た不快感が拭えない。

誤魔化すようにメンソールのよく効いたタバコをくわえて小さくライターを擦った。

肺いっぱいに吸い込んだ煙で満たされてうっとりする。寝起きの一服は格別だ。


「ゆずちゃん、おはよう。今日は早いね?」


同じ匂いを揺らしながらサンジがやって来た。これから朝ごはんの準備をするというのは聞かなくても明白で。
寝癖ひとつ、服はシワひとつない、朝からキレイな佇まいの彼に脱帽する。


「おはよー、なんか目ぇ覚めちゃって。」

「おれとしては朝からゆずちゅあんと一服できてクソ嬉しい限りだけどねぇぇぇ!そして寝起きのアンニュイな感じもかんわいいぃぃー!」


くねくねしながら目をハートに変える。朝から忙しいなーとぼんやり思ってゆるく笑うに留めておいた。

コーヒーでも淹れようか、との申し出に素直に頷いて。にっ、と笑ったサンジの後を着いて行った。








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