空いた口が閉じられない。
「おれルフィ、こっちがゾロでそっちがサンジ!」
あたしの様子はきれいにスルーして自己紹介始めちゃったよ。
あ、思ってた名前が一致してたわーい。
「ルフィ!てめえはまたそうやって…!!」
「かわいいレディが仲間になんのはおれぁ賛成だぜー!!ルフィたまにはいいこと言うじゃねぇか!」
ゾロと、サンジ。
ゾロは呆れたような、でも諦めたような顔でため息を吐いた。
サンジは目をハートにしてくるくる回ってる。すごい、あれどうやってやるんだろう。
いや、そんなこと冷静に思ってる場合じゃないよ自分、しっかりしないと!
「………あっつ!」
いきなり指に違和感。
痛いような熱いような感覚を感じてビクリと肩が跳ねた。
それに三人も同じようにビクリとしたのが伝わった。
違和感の元を辿れば、指に挟んでいたタバコが、いつの間にか限界まで短くなっていたのを気付かなかったみたい。火が触れてしまってた。
じわじわとくる熱と痛み。
それがなんだかやけに泣きそうなくらいに感じる。
涙が、自然に浮かんでしまう。
「大変だ!とりあえずうちの船で治療しよう、ね?」
優しく、安心さすようにサンジが声を掛けてくれて、それに反応する気力もなくて。
クイ、と手に違和感を感じればルフィの背中が目にはいる。
見慣れない背中。
峰さん、どうしてこうなったの?どういうことなの?
ずんずんと歩くルフィに引っ張られる形で、いつの間にかすぐ隣まで来ていた彼らの船に連れていかれた。
「ちょっ!あんた…!!」
「あれ、誰だそいつ?」
船に飛び移った先ではオレンジ色の髪の女の子と、鼻の長い男の子が迎えていた。
すみませんおじゃまします、なんて言う余裕もなく、あたしはまだルフィに手を引かれたまま。
顔は下を向かずに空虚を見ているのが自分でもわかるほどぼんやりしたままなすがまま。
ただ、ルフィの体温があたしと変わらないことだけわかる。
ルフィは二人にちょっと待って、と短く伝えて。
後ろで女の子がゾロとサンジに「どういうこと?!」と詰め寄ってるのが聞こえた。
怒られているんだろうな。当たり前だ、知らない女を連れてきたらびっくりするだろう。
「チョッパーいるかー?」
扉の前で声を掛けたのにもかかわらず、ルフィは返事を待たずにノブを捻った。
おいおい、と思いながらも中を見れば、真っ白なシーツの簡易ベッドに医療道具が並ぶ部屋。船の医務室だということが容易く想像できる。
でもお医者さんが動物だったなんて誰が想像できるだろう。
「ルフィお帰り!…って、えぇ?!誰だそいつ?」
呆けっとそんなことを考えてると、喋ったよ、このトナカイ。喋るんだ。すごい、てゆうか……かわいい!
あー!思い出した。UFOキャッチャーでこのトナカイのぬいぐるみみたことある!
「おうただいま!チョッパー、こいつ火傷しちまったみてぇだから診てやってくれよ!」
「ほんとか!お、おまえ大丈夫か?どこ火傷したんだ?」
まじで医者なんだ。ペットとか思っちゃってごめん。口には出さずに心のなかで謝っておく。
「……あ、指、右手の。」
彼の可愛さのおかげで脳が再び動き出し、声を出すことができた。まだたどたどしいけど。
ゆっくりと手を出せば、「軽い火傷だ、痕も残らねぇから心配しなくて大丈夫だぞ。」と言ってくれた。
「こいつチョッパー。すんげぇ医者なんだ!」
「す、すげぇとか言われても嬉しくねぇ〜ぞっこのやろう!!」
チョッパーは薬を塗り込んだガーゼを指に巻いてくれたあと。ルフィのことばに照れて、くねくねしてスィー…パパンって踊ってる。
…わかった君は感情を隠すのが下手なんだね。そんなとこも可愛いじゃないか。うん、いいよ、好きだよこの子。
「はっ!!お!おまえおれが怖くねぇのか!?」
ダンスを止めて(残念もっと見たかった。)唐突に聞いてきたチョッパー。
慌てたようにあたしから距離をとる。
それにあたしはきょとんとして。
「怖い?誰が?」
「…トナカイなのに喋るんだぞ。こ、怖くないのか?」
あたしの顔色を伺うように眉間にしわを寄せて聞いてきた。
きっとなにかトラウマがあるんだろうな。
「怖くないよ。だから後で抱っこさせてね。」
気持ちよさそうだし。もふもふ触りたい。
我慢できずにほっぺたを撫でてみた。
………ふわ、もふもふー。
堪能していると目に入ったのはなぜか泣きそうな、でも嬉しそうな顔をしているチョッパー。ちょっと変な顔になってるよ、大丈夫?(失礼。)
「おめぇ、いいやつだな!やっぱり仲間になれよ!」
あたしとチョッパーのふれあいタイムを遮って、しっしっし、って笑いながら言ってくるルフィ。
眩しいくらいの純粋さに目眩がする。
でもその顔は、何度か紙の中で見たことのある、屈託のない笑顔。
prev next
back