「わぁ、船?」
連れてこられた場所は、大きな船がある海岸だった。
気付けばもうすっかり夜になっていて、最初来た時よりも一層街がきらびやかになっていた。
海に反射する光が、船をライトアップしているようでとても幻想的。
「そう。この船はね、凄い機能がついているんだ。」
「へぇ、どんな機能なんですか?」
初めて見る、峰さんのうっとりした姿に、少し違和感。
……何だろう。何か、峰さん寂しい、目、をしているような。
「ゆずちゃんなら。ゆずちゃんの強運があれば行けるかもしれない。」
峰さんはまだうっとりとしたような、それでもやっぱり寂しい目をしていて。
海に向かってあたしに話しかけている。いつもはちゃんと、人の目を見て話す人なのに。
あたしはそっちにいないのに。
「行けるって、何処に、ですか。」
何だかただならぬ雰囲気を感じ取って、思わず低い声が出てしまった。
それに少し目を細めただけの峰さんは、もう一度、あたしの手を取ってこう言った。
「……ゆずちゃん、行こう。」
そう言い放った彼の目は、今度はしっかりとあたしを捉えていて。何処に、と聞けなかった。
無言を肯定の意と捉えられて。
峰さんは船に向かって歩きだす。
引っ張られるように後を小走りにして。
行かなければいけない。
行くしかない。
行かなくちゃいけない。
別に核心があった訳じゃなく、本能的にそう思った。
重ねられた手はいつもより強い力で握られていた。
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