平和に乾杯。 | ナノ





学校を終えて遊びに行こうと言う友達の誘いを断りながら帰路に着くのは日課になった。


今日もバイトで、同伴。

あたしは昼間は学生で、夜は呑み屋のバイトをしている。

今日の同伴相手のお客様は大きな会社の社長さんで、常連さん。太客だ。同僚にはとても羨ましがられてる。
あたしは別に役職とか興味なくって。月々それなりに稼げたらいいなぁって気持ちのアルバイトだったから。
だから会社の名前と役職聞いても、「あ、そうなんだ。」と軽く流してしまったことを思い出す。そのあとお姉さんからあんた何軽く流してるのよ、と言う目で見られた。いや、殺されそうな目だった。お姉さん曰く、もっと持ち上げろということらしい。初対面でむちゃくちゃな。しかもそんなわかりやすいヨイショがあってたまるか。
しかしそんなあたしの反応を気に入って下さったこの社長様は、即座に指名を入れ、ピンドンだのシャンパンだの、いっぱい注文してくれた。ほらみろヨイショが全てではないんだよ。


後から思い出したけど、すんごい有名な会社の社長だった。何でわからなかったんだあの時の自分。
うん、まあ結果オーライってことで。



「こんにちは、峰さん。」

「やぁゆずちゃん。」

「すいません、お待たせしてしまって、」

「いや、今来たとこだよ。学校お疲れ様。」


社長の名前は通称峰さん。本名はわからない。だって名刺もくれなくて、峰さんって呼ばれてるとしか教えてくれなかったから。
おそらく歳は50歳手前、見た目は30後半、男前な整った顔立ち、そして色気。
金持ちの癖に紳士ときたもんだ。何故こんな人があたしなんかに指名…って思ったが、まあいいやラッキーだな。なんて軽く自己簡潔して早くも一年が経った。もうラッキーを通り越してありがた過ぎる。あなたのおかげであたしは潤った生活ができています。


「ありがとう、峰さん。………で、今日はどうしたんですか?」


そう、今日の同伴は峰さんがいきなり誘ってきたのだ。いつもは遅くても三日前くらいには約束を取り入れるのに。


「あぁ…すまないね、いきなり。」

「いえ、全然かまいませんよ。ただ、珍しいなって思って。」

「実はね、ゆずちゃんに一緒に来てもらいたいところがあるんだ。」



そう言って峰さんはすまなさそうな顔を浮かべて手を差し出してくれた。この扱いはもう慣れたものであたしも素直に手を重ねる。
愛車のお洒落な高級車にエスコートされて心地いい車内へ腰をおろした。






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