お酒で、寂しさなんて紛れない。
求めるものは、人のぬくもり。
アルコールで熱くなった身体、ニコチンでクラクラする脳。
思考回路なんて役目を果たさない。
そう、こんな酔った日は。
人肌恋しくて。
真っ赤な夕陽がセンチメタルな心を急かすかのようにゆっくり沈む。
紛らわすためにまた呑むけど、やっぱり紛れないから。
駄目なんだよ。駄目じゃないけど。
求めて、フラフラしてしまうの。
駄目じゃないけど。でも危険。
「ゆずなんか1人でたのしそーだなー!」
結局、紛れもしない寂しい気持ちを紛らわす為に酒に逃げて。
そしたら目が廻るくらいに酔ってしまい、泥酔も泥酔。
くらくら、くらくら。
あー多分あたしの体もふらふらふらふらくるくるくる左右に揺れているんだろーな。
ひとりで揺れてるから、それを見たルフィが遊んでると勘違いしたんだろーな。
楽しそうに見えるとか、多分あたし半笑いなんだろーな。
「んふふ、楽しいですよー船長、酔ってるからねーふふふ」
左右に揺れてるあたしに合わせてルフィもゆらゆら揺れ出して。
へらりと笑って見せたら、一拍置いた後、ニッと笑ってくれた。
その笑顔が好きだと言えば触れてくれるだろうか、なんて。
ゆらゆら、ふらふら。
今日は久しぶりにお風呂に入ったのか、ルフィからふんわりと椿の匂いが香る。
「しっしっし、ほーか、つーかそれうまほー、おれも食おう呑もう」
「え、あーうんルフィも食べな呑みなー」
相変わらずサンジの作ったおつまみに目がないルフィ。
あたしのことなんてすぐに置いといて食べ物に意識が行ってしまうんだ。
さっき一緒に揺れていたのなんて一瞬の出来事で。
別にそれがつまらないなんて。妬いちゃうなんて。
そんなこと思ってしまうのは飲み過ぎたお酒の所為。
あたしを嘲笑うかのように、ポン、と片手で音を鳴らしてお酒を開けて。
ルフィはローストビーフを頬張りながらこちらにお酒を持った手を差し出した。
「にししっ、かんぱい!」
その笑顔がこの酔った頭ではいつもの数倍輝いて見えてしまって、更に酔いが深まりそうだ。
包まれるの、ルフィの笑顔は。
「ふふふ、かんぱい、何に?」
乾杯する理由なんて何でもいいけれど。とにかく何かにつけて絡んでいきたくなるのは酔っ払いの悪い癖だ。
それに、意図せず、私の気持ちを弄んだんだから。
「んー何に?そだなー」
意外にも理由を考えてくれながら、カチンとグラスと瓶を合わせて。
ごくごく喉を鳴らして流し込む。
喉仏が上下に揺れてるのをぼんやり見つめて。
思い出したようにあたしもグラスを口に付けた。
あのね、でもね、理由は何でもいいの。
紛れされてくれたら、それで。
むしろ紛れるなら乾杯なんてしなくてもいいんだ。
「ゆずは、何かあったんか?」
「ん?」
「かんぱいの理由、つーかそんなに呑んだ理由、」
腰を曲げて座るあたしに目線を合わしてくれる。
ひょい、と不意打ちに顔の前にルフィの幼顔が広がった。
椿の匂いに包まれて。
酔いが最高潮に達してしまう。
「──……ぁのね、さみしくて」
「ん?さみしい?」
「──……ぅん、ひとはだ、恋しくて」
ゆらゆら、ふらふら。
くらくらしてルフィの顔が歪んで見える。
嗚呼熱い。顔も身体も心も熱い。
口が上手くまわらないよ。
きゅ、とシャツの裾を掴んで。
誘うようにルフィを見上げた。
すると肩に手を置かれて、そのままルフィの胸元に引き込まれる。
「なんださみィのか、」
「──ふふ、うん、そう、そうなの寒いの」
さみしいと寒い、聞き間違えてるけど。
何でもいいの。
理由なんて後からどうにでも何にでもなるんだから。
とにかく今はこの気持ちを紛れさせてほしいから。
くらくら、くらくら。
男の匂いと体温に、どっぷり酔わせてもらいたい。
そんな姑息な虚しさも、バレなければ何だっていい。
後付けした理由。
椿の匂いよりも、海の匂いのが似合うよ。
今度はその匂いに包まれたい。
回した腕に欲を込めて。
prev next
back