気が付いたら大晦日。
毎年、一年が過ぎるのを早いと感じる年になったなあとしみじみ思う。そして今年はまた別格な年になった。日本が恋しいと思うことはだいぶ減ったけれど、やはり何かの節目となると思い出して懐かしんでしまうのは致し方ない。今日は天気も悪かったからそれも手伝ってずいぶんとぼんやりしてしまった。窓の向こう側にはあたしが望む景色など広がってはいないのに。
この世界に来てから一日というものがあっという間に終わっていく。
一瞬足りとも目を瞑ってはいけないと思えるくらいの輝かしく掛け替えのない日、だと思う。
生きる、ということを身を持って体感している毎日だ。
そんな色んな複雑だとすら思う気持ちを胸に仕舞い、夜、みんなで宴をして。
そのままカウントダウンする予定だったんだけど、ルフィが急に初詣に行きたいと言い出したから、宴は一時休戦になった。
「てかルフィ、何でいきなり初詣?いや、いんだけどさ、」
「ん?にっしっし!だってよ、出店もあるって言うし!!楽しそーじゃねぇかハツモウデ!!」
「ああ…ふふ、ルフィらしいわ、」
夕方に差し掛かる前、サンジと島に降りた時に見付けた神社。驚くことにこの島は日本と同じような行事や風習があるらしく、初詣ももちろんする人が多いと神社で箒を掃いていた巫女さんに聞いた。そして辺りには出店の準備がされていて。
そういえばその話を夕飯時にしたらルフィが目を輝かせてたんだった。
「おれぁ神に祈らねぇぞ、」
怠そうにあくびをしながら歩くゾロが隣に並んでそう言った。
「じゃあ1人寂しく船番でもしてる?」
「クク、ゆずちゃんナイスアイディア、是非そうしろよクソ剣士。」
すると次は逆隣にサンジが並んで。
「てめぇぐる眉…てめぇはせめて眉毛がこれ以上巻かねぇように祈ってろよ、」
「ああ?!んだとこのマリモベッド!てめぇこそそれ以上頭にコケ生やさねえようにお願いしとけ!」
「あたしを挟んで言い合いしないでよ…、」
唾も飛んで来そうな勢いで、この二人は相も変わらず言い合いを開始した。きっとこれはいつまで経っても変わらないんだろうなと思えば愛しささえ沸き上がってくるんだから、あたしもずいぶんと焼きがまわったもんだと苦笑う。
そしてナミにうるさい、とゲンコツを食らって終了するまでが一連の流れ。
「……にしても、さむ、」
手を擦り合わせて息を吹き掛ける。はあっと白い息が丸く出て、手袋をしていない自分の手に少しばかりの暖かさが触れて。反対に、変わらずひんやりとする足元を恨めしく思う。
しゃりしゃり、ざくざく。
足を前に進める度に何とも言えない感触が足の裏から全身に伝え渡る。
「ね、昼間に降った霰がそのまま残ってるなんてねー、」
「どうりで寒いはずね、」
ナミとロビンも、防寒着はばっちり。高級そうなコートに身を包んでいつもに増して素敵である。
「霰の形そんまま残ってるとか有り得ねぇ、まじでどんだけ寒ぃんだよ、」
「おれはこんくらいの気温がちょうどいいぞ!」
「さすがだな、チョッパー、毛皮脱いで貸してくれ。」
ワイワイしながら夜道を歩いて。神社に近づくに連れ、人も多くなってきた。まさか初詣に麦わらの一味が来てるなんて思いもしないだろうな、行き交う人みんな暢気な笑顔だ。
ふと、人混みに紛れて思う。
あたしは本当にここに馴染んでいるのか、と。
「ん、ゆず、何やってんだ?」
「ゆず!これ本当にお金入れなきゃダメなの?!聞いてないわよ!」
「ナミ…お前賽銭箱盗むとか罰当たりなこと言うなよ!」
いつも、そんなことを思ったところで。それを払拭してくれる声たちに引き戻される。
「お!鐘がなりだしたな、」
「にっしっし!ほんじゃ野郎共!今年もいっぱい冒険しよーな!」
例えこの世界に馴染んでいなかったとしても。
この輪の中にはもう完全に馴染んでいると思えるから。あたしはそれでいい。多分、それが今のあたしの全てなんだ。
踏みしめた、
「みんな、今年もよろしくね!」
除夜の鐘を聴きながら、一年を振り返ると。
笑顔の多い年だったと満足した。
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