平和に乾杯。 | ナノ





勝負事が好きな人たち。それは、この世界に来た当初の平和で甘い蜜にコーティングされたあたしの頭では、理解し難い部分でもあった。はっきり言って。好き好んで闘う彼らを見て、戦闘狂だ、と思った。

それでも、目まぐるしく起こる予測不可能なそんな毎日に、恐怖とは違った刺激的な感情が芽生えたのはいつだったか。


「しっしっし!おーい!ゆず、大丈夫かー?!」


緩やかな航海中、少しだけ乱れた船の上。知らない男性たちが土足で踏み込んできた。

少し離れた場所からあたしの名前を呼ぶルフィの声。その音は弾んでいて。敵襲にも拘わらずテンションが相も変わらず高いことが安易に想像できる。

多分、いや、きっと。
もっと断言的で曖昧な単語で。


この声と拳と決して小さくはない背中に安心感を覚えた時から。この危険な、ドラッグの様なレースに慣れてしまったんだと思う。


「大丈夫ー、でも眠たいから早く片付けてー!」

「まかせろ!でも昼寝の前におやつの時間だ!」

「おやつ…、あ、サンジ、今日のおやつはエッグタルトでお願いします。」


そういえば今日、サンジにおやつは何がいいか聞かれていた。答えを出す前に、今の状況になってしまったからすっかり忘れていて。何となく今、エッグタルトが頭に閃いたから戦闘中に空気読まずにリクエスト。そんなことできるようになったあたしも大概図太くなったもんだ。


「はーいかしこまりました!……オラ!麗しのレディからご注文頂いたんだ!!とっとと失せろ、クソ野郎共!」

「よっしゃ!早く片付けてエッグタルトを…おれは食う!!!」


目の前にぶら下がった楽しみに、早く食い付こうとルフィは端から見てもわかる様に俄然気合いが入った。
あっという間に敵を追い払って、一息つく暇もなく「エッグタルト早く食いてー、」とサンジにおやつをねだってて。
サンジもまんざらではないように笑いながら「うるせー、すぐ作るから手ぇ洗って待ってろ!」とタバコを吹かしながらキッチンに入る。

何だかそれが妙に可愛くて愛しく見えたりして。


「…敵襲だったのか?」

「あ、うん。てかゾロ遅い、寝てたの?」


戦闘狂の内の一人、ゾロは今まで寝ていた。よっぽどの敵襲だったらすぐ起きてくるけど、さっきみたいな雑魚相手だとこうして後から起きてくることもちょくちょくあったりする。


「おー…、大丈夫だったか。」

「うん、おかげさまでかすり傷ひとつありません。」


ゾロが起きてこないイコール大したことないという方程式もあたしの中で定まってきたし。
だからふにゃりと笑って見せれば、満足したようにゾロも鼻で笑う。


「ハ、かすり傷ひとつ、作らせねーよ。」


そう言って、あくびを噛み殺すことなく踵を返す。また昼寝を再開するのだろうと安易に予想はつくけれど。


「ふ、男前ねー。」


頭をガシガシと掻きながら去っていく後ろ姿を見送りながら笑みを溢す。
嘘ではないであろうことばにうっとりしたりして。


「ゆず!おやつできたぞー!」

「あ、うん、食べるー、」


太陽の陽が甘く射し込む甲板で、みんなの楽し気な声が響く空間。さっきの戦闘もそうだけど、この船の上でもっと緊迫した戦闘や血生臭い空間を創ることもあるのに。同じ場所で同じ人たちなのに全然違う。
でも今は夢のようなフワフワしたそこに手を伸ばす。

まぶしすぎるほどの空間に飛び込んで。


ああ、あたしは今日も此処にいる、と確信するんだ。








此処。


戦闘狂の彼らは、しょっちゅう身体中に傷や痣を作ってて。
でも、それを勲章のように笑っている。


行く先はブレないね。






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