突然入って来た俺に名字と古賀は固まっている。
「・・・・・・は、はは。これはこれは、副長じゃないですか。よくここが分かりましたね。お一人でいらしたんですか?」
「んな馬鹿なことするわけねぇだろうが。そこにいる演技上手なお仲間をつけて来たんだよ。隊士たちは後始末にまわした。」
『・・・・・・・・・・・・・・。』
騙していた事に気まずいのか、もしくはつけられていた事に気付けなかったことを悔しく感じているのか、名字は俯き目を逸らしている。
「・・・・・・・・じゃあなに?俺とこいつがグルって知ってたわけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「知っててこいつのことハメたんだ〜。副長もやるね〜。」
面白おかしく笑う目の前のクソ野郎に今にも斬り殺してぇ衝動を必死に理性で縛りつける。
ダメだ。今殺しても何も変わりゃしねぇ。
「・・・・・・まぁ、いーや。取り敢えず俺らにとって真選組って邪魔なんで。大人しく死んでください。」
古賀は名字から離れると刀を抜き、切っ先を俺に向けた。
その表情は俺を殺せるのが興奮しているのか、目を血走らせニヤリと口は弧を描いている。
・・・・・・くそっ。虫酸が走る。
あんなイカれた野郎に騙されていたのか、俺は…
ギリリと歯を軋ませ、口内に血の味が広がる。
チャキ…
俺は静かに刀を構える。
『・・・・・・・・・・・・。』
名字の顔は、相変わらず俯いていて表情が確認ができない。
「・・・・くくっ。」
古賀が不気味に笑った直後俺の後方、つまり扉からぞろぞろと大勢の攘夷志士たちが入って来た。
「フッ。なんだァ?テメェはそんなに自分の腕に自信がねぇんだな。こんなに雑魚をかき集めやがって。」
「あれ?土方さん知らないんですか?灰も積もればなんとやら…ですよ。」
「・・・・・・それなんか違くね?」
ガチャガチャと後ろにいる攘夷志士たちは刀を構え出す。
俺はチラリと後ろを確認すると古賀に視線を戻し、出来るだけ野郎を挑発するように鼻で笑う。
「ハッ。まぁ、どんなにゴミを集めようと所詮ゴミはゴミだろうが。俺には勝てねぇよ。テメェも含めてな。」
「チッ!なめんじゃねぇぞ!早くそのムカつく口、首ごとふっ飛ばしてやるよ!」
完全に堪忍袋の緒が切れたのか、青筋をたて瞳孔を開いている。
一斉に斬りかかる浪士どもに流石に額から汗が落ちる。
一人で全員いけるか…?
「ぐぁぁぁぁ!!!?」
「ぎゃああああ!!!」
強く刀の柄(つか)を握った瞬間、斬りかかって来ていた浪士が数人、床へと崩れ落ちた。
その場にいた人々が目を見開く中、俺は倒れている浪士たちの中心に立っていた奴らを見て、悔しいが少しだけ安堵してしまった。
「よぉ!遅れて悪かったなトシ!怪我はないか!?」
「なんでェ。土方さんまだ生きてたんですかィ。とっくに地獄の住民になってんかと思いやしたよ。」
「怪我はねぇ、大丈夫だ。・・・・・・てかなんだと総悟ォ!!俺は地獄に逝く予定はねぇよォ!!」
胸ぐらを掴み合う俺たちを見て、俺の味方が来たことに古賀は焦りを隠せないらしい。
そりゃそうだ。こいつだって元一番隊隊士だったんだ。
俺たちの力量くらい身に染みてるほどだろう。
しかし不意に奴の口の端が上がったように見えた、その瞬間
ザシュッ!!
いつの間にか俺の背後にいた名字が見えたと思った途端、 凄まじい断末魔と共に大量の血飛沫(ちしぶき)が上がった。