結局あの後、酌だけで終わった。
そして名前も教わった…
『神威・・・・・・・・』
窓から見える月へと私の切な気な言葉は、フワリと昇っていった…
その日からほぼ毎夜神威は訪れた。
そして今日もまた神威が来た。
昨日と同じく酌をすると、今日は仕事の話をしてくれた。
と言っても、ほぼ部下にやらせているそうだ…
『・・・・ふふ。駄目ですよ、ちゃんと仕事しなくちゃ。』
手で口を覆い、クスクスと笑うと神威も笑った。
・・・・・・・・誰かの笑っている姿を、初めて…あたたかく感じた…
違う。
初めてなんかじゃない…
昔・・・・そう。まだ…私が吉原に売られる前…
私にも…愛しい人がいた…
彼が笑うだけで世界が輝いた。 彼に褒められただけで全身が花のように綻んだ(ほころんだ)…
だけど…
いつものように家に帰った私を待っていたのは…
父様でも母様でもなかった…
最初の頃は抵抗して、抜け出したりもした。 しかし、すぐ捕まりひどい折檻をされた。
そして…
【名前も故郷も捨てなさい。過去もすべて…】
すべてを・・・・捨てたんだ。