吉原桃源郷


そこは、偽りしかない世界…


今日も江戸の町は、降りしきる雨で濡れていく。


薄暗い部屋の片隅でひとり、鏡を見ながら紅をひく。


毎夜、偽りの恋愛を求める男たちに応え、そして受け入れる。


深く、深く、夜の帳(とばり)をかけて…


・・・・・・時々甦る(よみがえる)昔の自分


橙色のあたたかく輝く花びらに、夢や希望を乗せていた。


しかしいつまにか花びらは朽ちて、冷たい藍色の花へと変わって しまった…


揺れ流れる傘の群れ。


決して淀んでいる(よどんでいる)空を見上げる者などいない。


女を求める男たち、男たちを求める女たち… 自分もあんな欲に溺れる人たちと同じだと思うと自分さえも哀れ に感じる。


不意に流れる傘の中、ひとつの傘がクルリと回り、オレンジ色の 髪が見えた。


そして傘と傘の隙間から覗いた青の瞳。


窓に肘をつき見下ろす私に気づいた彼は、ニコリと笑うと同時 に、突風が横切り思わず目を瞑った。



「やぁ、暇そうだね。なんなら俺と遊ぼうよ。」



聞き慣れない声にそっと目を開けると、窓の縁に腰をかける先程 の青年がいた。


サァーと吹き込む雨や風が、彼の明るい髪を濡らし、そして輝か せる。


この空と一緒に淀んでいたこの胸に、何か… 何かが広がった…


・・・・・あぁ・・・・・綺麗・・・・・


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