副長が古賀に斬られる寸前、私は『あぁ…副長は死ぬのか…』と心の中で呟いた。


最初からそのつもりで潜入したはずなのに、当たり前なことなのに、もうあの怒鳴る声は聞こえないのか。もう、睨まれただけで身が凍る瞳は見れないのか。



もう…あの呆れたような笑顔は、向けてくれないのか…



チラリと私を見た副長と目が合った瞬間、ポロリと私の目から雫が落ちた。


副長を呼ぶ局長たちの声が頭で反響する。


副長をなぜ殺すの?


私は何をしてるの?






私はなぜ副長を殺すの?



…違う。


違うよ…


今さら気づいて、馬鹿だ私は…


『土方さん!!』


私は刀を投げ捨てると副長の元へと駆け出した。










静かに吐息をたて眠る副長に安堵の息を吐く。



「・・・・・・・・裏切るんだ名前。」

『・・・・・・・・・・・・・・。』



私は古賀を見つめながらゆっくり立ち上がる。



視界の端には、志士たちの亡骸の中心で何が起きているのか理解できない局長たちがただ固まっている。



『私は…』



チラリと副長を見て微笑むと、すぐに古賀へと視線を戻し睨む。



『私は…「裏切る?何を馬鹿な事を言ってんだテメェは。」

『!!!?』



言葉を詰まらせる私を庇うように、私の前へと局長と隊長が進み出た。



「名前は、アンタの仲間じゃねぇ。」





「「俺たちの仲間だ。」」



『っ!!!』



ずっとずっと騙していた。


真選組の動きや幕府の極秘情報を得るために潜入した。


最初は私も真選組は敵として割りきっていた。


けれど、どうしようもないくらい馬鹿な上司ばかりだったり、毎日の他愛もない世間話も戦場で背中を任せてくれる信頼も


すべてがあたたかかった…


初めて、心から人間を信頼できた。


しかしそれと同じく罪悪感も増えていった。


笑いかけてくれる人たちに、私は偽りの笑顔で答えているのか


背中を預けてくれる人たちに、私は偽りの背中を預けているのか


・・・・・・裏切り者だと知っても仲間と言ってくれるこんな良い人たちを、…


傷つけてしまった。



『私は皆を裏切ったのに…それでも…』


いいの?


私はそんな意を混めて二人を見上げた。


そんな弱々しい私の問いに、二人は振り向くと



「「何のことか分からねぇや」」


ニカッと子供のように笑った。



そんな二人に私は呆気になったけど、そんな二人の優しさが嬉しくて…


そっか。と私は泣きながら笑った。


「おら。さっさっとその目から落ちてる水拭け。ちゃっちゃっと終わらせてマヨネーズ摂取すんぞォ。」

『!』


ポンッと安心する温もりある大きな手が、私の頭に置かれた。


『ひ、土方さん…!』


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