バニラ色に染まる

「「あ、」」


声が重なって視線を合わせたのは同時だった

部活がオフになった土曜日、すなわち今日
雨宿りのために入ったマジバで思わぬ人に出会った


「桐皇の桜井くん。お久しぶりです」


横を通るまで全然気づかなかった
バニラシェイクを啜る影が薄いこの人はまさしく
ミスデレクションを使う、誠凛の


「え、ええと…、く、ろこさん?」


はい、と彼は頷いた


「さん、なんてつけなくてもいいですよ?」
「すっスイマセン!じゃあ、あの、えと、黒子く ん」
「はい。…よかったら少し話しませんか?混んできたみたいですし、一緒に」

あ、と そう言われて思い出した
そういえば席を探してる途中だったっけ


「じゃあ…お言葉に甘えて」


そう言って僕は黒子くんの前に腰をおろした


「…僕の名前、覚えてるんですね」
「へっ?」


突然話を振られて驚く


「そ、そりゃ、スタメンじゃないですか。それに、すごい、ですから」
「光栄です」
「え?」
「影が薄くてすぐに忘れられるんですよ、人に覚えられるのなんてあまりなくて…驚きました」
「…ぼ、僕もですよ。まさか、黒子くんに覚えられてるなんて」
「そりゃ、君は印象に残りましたからね」


…印象に、残る?
それは、僕が他と変わってるから?
もしかして既にうざいと思われてる?


「す、スミマセン…」
「…なんで謝るんですか?」
「印象が残るって…僕が、うざいから、ですか」
「な…っ、違いますよ。君が、青峰くんと一緒にいるって桃井さんから聞いて、気になってたので覚えてたんです」
「…気になってた?」
「はい、桜井くんがどんな人かと思っていたら…可愛らしい人で」
「か…っ!」


可愛らしい?
そんなこと言われたのは人生で初めてで、反応に困る


「ふふ、顔真っ赤ですよ。…あぁ、バニラシェイク飲みますか?冷たいですよ」
「え、えぇ!?いや、えっと…」
「僕結構お腹いっぱいなんです。飲んでくれると有難いんですが」
「…それなら」


ありがとう、と受け取ったはいいけどなんとなく意識してしまってそのままテーブルに置く


「あ…すみません、桜井くん。僕、そろそろ行きますね」
「え?あ、はい!」
「ではまた、今度は試合で」


席を立った黒子くんにさよならをする
そして彼の姿が見えなくなると同時に溜息をついた


「可愛らしい、かぁ…」


いつもならそう嬉しいとは思わない言葉
それを彼に投げかけられた途端狼狽えた
これは、いったい

(…まさかね)

そんな考えを振り払おうと思いつつ、僕はテーブルの隅に置いたシェイクに口をつけて少し後悔した



----------------------------

よくわからない黒桜両片思い話

2014/07/12






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -