徳川軍が真田丸目掛け進軍を開始し、戦の火蓋が切られた。
 兵力では圧倒的に徳川が上だったが、その多くは真田丸から続け様に発射される砲撃に為す術もなく散っていき、武田軍に有利な戦運びとなっていた。
 そこへ上空から突如一人の武将が飛来した。戦国最強と謳われる、本多忠勝だ。砲撃をものともしない忠勝のその巨大な機工槍の前に、武田兵は次から次へと薙ぎ倒されていく。
「くっ、ここはやはり俺が……!」
槍を手にした幸村に、佐助の制止がかかる。
「あと少しで主砲の発射準備が整う、それまで耐えろ!言ってみな、ハイ『動かざること』?」
「……『山の如し』」
「ご名答ー!じゃ、指示を頼むぜ。決断することがあんたの仕事だ」
「心得た」
幸村は前線の足軽に一時撤退の指示を出し、騎馬隊を忠勝に差し向ける。
 佐助も忠勝のもとへ向かった。数隊に分かれた騎馬隊の怒涛のような波状攻撃と、分身した佐助の三方向から繰り出される手裏剣に忠勝が足を止めたその時、主砲の発射準備が整った。
幸村はすぐさま発射の指示を出す。
「天覇絶砲、てぇーーー!!!」
忠勝が砲弾の飛来する音に空を見上げると同時に、主砲の砲弾がその巨躯に命中した。周囲の者全てが目を見張り見守る中、忠勝は鎧の繋ぎ目から黒煙を吐き出すと膝をつき、そのまま動きが止まった。
 幸村は総攻撃の号令をかけ、歓喜に沸き士気の上がった武田兵は破竹の勢いで徳川の陣を落としていく。
「大将、あとは本陣を残すのみだ」
佐助が戻ってきた。
「佐助、ここは俺に行かせてくれ。徳川殿だけはこの手で討ち果たす、でなければ俺は先へと進めぬのだ。お主も邪魔をしてくれるな」
「そう言うと思ったよ」
佐助は困ったような顔で笑い、肩を竦めた。
「行って存分に戦ってきな。そして……絶対勝ってくれよ。武田はあんたを失うワケにはいかないんだぜ」
「無論だ!では行って参る!」
そう言って本陣を飛び出そうとした幸村を佐助が呼び止めた。
「ちょっと待って大将。さっき伊達の遣いからこれを預かった。あんた宛てだ」
「政宗殿から!?」
その名を耳にした途端目の色を変えた幸村は差し出された書簡に目を通す。そこには見慣れた文字で『篠山で待つ』とだけ記されていた。篠山とは真田丸すぐ近くの山とは名ばかりの小高い丘の名称だった。
 政宗が三成を倒した事は幸村も聞き及んでいた。政宗は目的を果たした。そして、幸村を待っている。この戦場のすぐ近くで。
 槍を握るその手に力を込め、幸村は駆け出した。

 辿り着いた徳川本陣で家康と対峙する。
「来たか、真田……」
「徳川殿。甲斐の虎の意思を受け継ぐ魂はこの幸村に在り。貴殿を討ち果たし、今ここにそれを証明致す!」
「儂は信玄公から多くを学んだ。それを元に絆の力で天下を統べる。真田、お前が立ち塞がると言うのなら、儂はお前を撃ち破るしかない」
幸村は槍を、家康は拳を構える。
 家康目掛け走り込んでくる幸村の槍が家康に届く前に、家康はその拳で地面を打つ。衝撃で地が割け岩が隆起し、幸村が体勢を崩したその一瞬に幸村の懐に飛び込んだ家康は、容赦なく幸村に拳を叩き込む。思わず倒れ込みそうになるものの、足を踏ん張り辛うじて持ち堪えた。
 家康は思っていたより強かった。間断なく繰り出される家康の拳を槍でなんとか防ぎつつ反撃の隙を窺うも、家康のすばやい動きになかなか好機を見出せない。
 そして家康の手甲が幸村の槍を弾き飛ばし、幸村の顔面目掛け家康が大きく拳を振り上げたその時、
「虎炎!!!」
幸村の燃え盛る拳が家康の左頬に炸裂した。
「ぐふっ……!」
もんどり打って倒れた家康に起き上がる力は残されていなかった。
「目には目を、拳には拳を、でござる」
「真田……やはり虎の魂を継ぐのはお前だったという事か……。儂はもう立てない、さあ、とどめを……刺すがいい」
幸村は槍を拾い、家康を見下ろした。そして槍を構えようとしたその時、何かの気配を察し振り向いた幸村の目の前に忠勝の機工槍が迫っていた。その向こう側には倒れた筈の忠勝の姿があった。最後の力を振り絞り、主君の命を救おうと槍を投げたようだった。
 幸村は咄嗟に身を翻し直撃を免れたがかわし切れず、忠勝の槍は幸村の脇腹を裂き、血飛沫が辺りに飛散する。
 忠勝は家康を抱えると、黒煙を吐きふらつきながらどこかへ飛び去った。
 幸村は自分で予め佐助から貰い受けていた血止めの薬で応急処置を施し、その足で篠山へと向かう。
 家康にとどめを刺す事は出来なかったが、幸村は満足だった。虎の、信玄の魂を継ぐ者は自分をおいて他にない、それを証明出来たのだ。
 後は政宗と決着をつけるのみ――――遂に待ち望んでいたその時が来た。幸村は脇腹の痛みなど微塵も感じていなかった。




    次へ    戻る









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -