翌日。
 山地を越えて進軍してきた豊臣勢を迎え撃つべく、伊達武田の二軍は甲斐の国境を跨いで展開していた。
「政宗様。何故真田がここに?」
政宗の後ろに控えた小十郎は、当たり前のような顔で主君の隣にいる赤装束の武将を大いに訝しむ。
「挨拶が遅れ申した。片倉殿、この真田源二郎幸村、此度先陣に加えていただく事と相成り申した。よろしくお頼み申す」
「そういうこった。戦力は少しでも高い方がいいだろ、小十郎」
政宗は小十郎に振り返りそう言うと、次に幸村を見る。
「真田幸村。消耗戦なんざ俺の性に合わねェ、一気にカタつけるぜ!」
「心得ておりまする。敵総大将の首級を政宗殿に捧げてみせましょうぞ!」
「Bullshit!豊臣の首を獲るのはこの俺だ!」
「何を申されるか!某にござる!」
「俺だっつってんだろ!」
 途端、睨み合う二人の間に火花が散り始め、小十郎は頭を抱えた。
――――厄介事が増えやがった……!
 状況を顧みず敵陣に斬り込んでいく主君の背を守るのが己の務めだが、張り合う相手がいたのでは政宗はより加熱するだろう。
 俺!某!俺!某!と幼稚な言い争いを続ける二人を尻目に、小十郎は溜息が出るのを禁じ得なかった。
「では」
「ああ、決まりだな」
小十郎の悩みなど露程も知らぬ政宗と幸村は、互いに目をぎらつかせ口角を上げて不敵に笑う。
「某と貴殿、どちらが先に豊臣の首級を挙げられるか勝負でござる!」
「That's exactly what I wanted!で、何を賭ける」
「か、賭け、でござるか!?」
「Hell yeah!そうだな、こういうのはどうだ。負けた方が勝った方の言う事を一日なんでもきくってのは」
「それならば願ってものうござる!」
「よし、じゃ成立だな!」
二人のやり取りを黙って聞いていた小十郎だったが、賭けの内容に目を剥いた。
「政宗様!貴方様は奥州を統べるお立場にございまするぞ!それが例え一日であろうとも武田の武将の言いなりになど」
「るっせェぞ小十郎!俺が負ける訳ねェだろ!ガタガタ抜かすんじゃねェ!」
「しかし!」
政宗の文句に尚も食い下がる小十郎に、政宗は殺気立った表情を和らげ言い含めるようにこう言った。
「そんな心配すんなって。なァに、俺が豊臣の首獲りゃいいだけの話だ。そういう訳だから軍の指揮はお前に任せたぜ」
「は……御意に」
主君の言い出したら下がらない性分を誰よりも理解している小十郎は、不満を無理矢理飲み下す。
 幸村はそんな伊達主従のやり取りは耳に入らず、賭けに勝った際に政宗に何をさせるか、それだけで頭が一杯だった。よからぬ妄想が多分に混じっていた事は言うまでもない。

 そうこうしているうちに、土煙を上げて進軍を開始した豊臣軍の先兵の姿が見え始めた。
 政宗が一際大きな声で伊達軍恒例の英語の号令をかけ、奇抜な髪型をした兵卒が吹く法螺貝の音が高らかに鳴り響く。
「行くぜ真田幸村ァ!Partyの始まりだ!」
「いざ!」
並んで馬で敵陣に突進して行く政宗と幸村に、伊達軍の面々から「あの二人、息ピッタリじゃん」などと声が上がる。
 小十郎はそれに苦笑しながら各分隊へ指示を飛ばした。

 政宗と幸村は群がる敵兵を次々に吹き飛ばしながら突き進む。蒼雷に打たれ、紅炎に焼かれ、二人と対峙した足軽達は見るも無残な姿に成り果てていた。
 背後に戦闘不能になった敵兵の山を築きながら呆気なく敵本陣に辿り着いた二人だったが、そこに人の姿はなく蛻の殻だった。
「これは、一体……」
慌しく逃げ出した様子も感じられず、開戦当初から無人であったようだ。
 政宗は訝しみながらも中へと歩を進める。
 幸村が政宗に続こうとしたその時、豊臣の家紋の描かれた幕の不自然に捲れた部分から種子島の銃口が政宗に向けられているのに気づいた。
「政宗殿っ!!!」
咄嗟に地面を蹴り政宗を突き飛ばす。
 突如轟いた銃声が耳を裂くと同時に政宗が目にしたのは、自分を横から突き飛ばした幸村の左胸に弾丸が命中する瞬間だった。



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