武田屋敷を出た幸村は、政宗に会う為に伊達の陣営を訪れた。
 政宗と言葉を交わしたかったというのも勿論あったが、明日の戦について言っておかねばならない事があった。
 それに一つどうしても気になっている事を確かめたかったのだ。
 既に休んでいたなら大人しく引き返すつもりだったが、馬繋で馬の手入れをしている政宗の姿を認め足早に歩み寄った。
「政宗殿、夜分にご無礼致す」
「真田幸村か。どうした?」
「お話がございます故、少しよろしいでしょうか」
政宗は傍にいた兵卒に馬の手入れの続きを任せ、幸村と連れ立って歩き出す。
「政宗殿、腕の怪我はもうよろしいので?」
「ああ、それならもうすっかり治っちまったぜ。アンタがくれた薬のおかげでな」
「それは良うござった。某、その事がずっと気になって気になって……それを確かめたかったのでござる」
「話ってのはそれか?」
「いえ、明日の戦にござるが……某も先陣に加えていただきたく」
「アンタが?武田はどうすんだ」
武田軍は伊達軍の左右に展開し、進攻してきた豊臣軍を挟撃する手筈になっていた。
「豊臣軍と真っ向からぶつかる伊達軍に某が少しでも力添えが出来れば、と。お館様のお許しも得ておりますれば」
先程幸村が信玄に願い出たのは、その許しを請う為だったのだ。
「ははァ。武勲をたてようって腹か」
「そ、そうではござらぬ。少しでも早く戦を終わらせる所存にて」
それは建前だった。本音では戦が終われば奥州へ帰ってしまう政宗の少しでも近くにいたかったのだ。
「ま、別に構わねェぜ。アンタの腕は俺もよく知ってるしな」
そんな幸村の本心を知ってか知らずか、政宗はあっさり了承する。
「かたじけない。感謝致す」
「なんだ、そんな用だったのかよ。俺はてっきり――――」
政宗は歩みを止め幸村に向き直ると、幸村の顔を正面から覗き込む。
「俺に会いたくて来たのかと思ったぜ?」
「それは、その……本音を言えばそれが一番の目的にござるが……」
 幸村は図星を突かれた事が恥ずかしく、そして先程の軍儀の間で政宗に歯牙にも掛けられなかった事に蟠りもあり、つい顔を背ける。
 政宗はそんな幸村の顔を両手で挟み、自分の方を向かせた。
「だったらちゃんと俺を見ろ。下手すりゃこれが見納めになるかも知れねェぜ」
その言葉にはっとした幸村は、逸らしていた視線を政宗に向け、その隻眼を見据えた。
 政宗は顔の距離はそのままに、幸村の首の後ろに腕を回し体を密着させる。幸村の胸中を知ってか知らずか、反応を楽しんでいるようでもあった。
「見納めなどとそんな、縁起でもない」
「明日はでけェ戦だ。Never say never, どんな強い奴だって生きて戻れる保証なんかねェ。そうだろ」
「政宗殿!政宗殿は決して某が死なせはしませぬ!守り通してみせまする!」
「No kidding!俺は死なねェよ。俺が心配してんのはアンタの方さ」
「それならご心配には及びませぬ。某は日の本一の兵にござりますれば」
「Ha, そうだったな」
政宗が軽く吹いて笑うと、幸村もつられて笑顔になる。
 少しの間そのまま見つめ合った後、どちらからともなく唇を重ねた。離れていた間の思いを互いに確かめ合うように、何度も角度を変えながら舌を絡め合った。
 政宗の背中に回されていた幸村の手が、政宗の腰を撫で回し始める。
「政宗殿……この装束は固うございます」
「そりゃ、陣羽織の下に鎧着込んでっから」
「もっと直に貴殿に触れとうござる。ちょっと脱いでいただけませぬか。某脱がせ方がわからぬ故」
「No way!場所弁えやがれ!……この続きは戦が終わってからだ。You see?」
「ほんの少しだけでも、今」
「駄目だ。我慢しろ。その代わり戦が終わった後に好きなだけ触らせてやっから。な?」
「……心得申した。豊臣勢を屠った暁には、政宗殿の御身を心行くまま堪能致す所存。うおおおおおおおおおお!俄然闘志が漲って参ったぁぁあああ!!」
「ちょ、くっついたまま叫ぶなよ。鼓膜が裂けるだろうが」
「も、申し訳ございませぬ、つい」
「まァもじもじしてるよりそっちの方がアンタらしいぜ」
 政宗は苦笑しながらも、そんな幸村を堪らなく愛しいと感じていた。COOLが身上の政宗だが、幸村の熱さにこそ惹かれるものがあった。
 互いにこの上なく互いを欲しているのだった。
「いいか真田幸村、明日は何があっても生き残れよ。誰を犠牲にしてもアンタだけは生き残れ。いいか、絶対だぞ」
「無論にございます。貴殿こそご無事のご帰還を。先日も怪我をなされたと聞いただけでこの幸村どれ程心を痛めた事か」
「わかってるって。そんな下手ァ打たねェよ。なんせアンタとのお楽しみが待ってるんだからな」
そう言って政宗は再び幸村に唇を合わせた。



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