各々は国へ戻っていった。
 そうして、皆これまでと変わらぬ日常を過ごしていた――――真田幸村が奥州に来なくなった事を除けば。


 大仏殿の一件から半年ほど経ったある日。政宗はいつものように政務に追われていた。
 夕刻、自室で一通りの政務を片付け、縁側で一服しようと思った政宗は、がらりと障子を開けた。縁側に胡坐をかき、煙管に火を点し、煙を吸い込む。
――――アイツ、今頃どうしてッかな……とっくに俺の事なンか忘れちまってるかもな……。
茜色に染まった、手入れの行き届いた庭を眺めながら、別れた恋人に思いを馳せる。

 そうして暫く紫煙を燻らせていると、いきなりどさっと何か大きなものが庭に降ってきた。何事かと思い目を凝らす。
「痛たたた!佐助の奴め、もっと静かに降ろせぬものか。これでは気取られてしまうではないか」
その“大きなもの”とは、今まさに政宗が脳裡に思い描いていた真田幸村その人だった。
 強打した腰をさすりながら幸村が屋敷の方を見ると、左眼を大きく見開いた政宗と目が合った。
「アンタ……何やってンだ……」
「…………………………」
「おい」
「や、これは政宗殿、お元気そうで何よりでござる」
「……俺ァあン時、『何年か経って』って言ったよな?」
「いや、あの、確かにそうでござるが……『会いに』ではなく、『盗み見に』なら良いかと。不可抗力で会ってしまったが、本来は物陰からこっそり政宗殿を盗み見て黙って立ち去る算段でござった」
 その言葉を聞き終わらぬ内に、政宗は足袋が汚れるのも厭わず幸村に駆け寄り、抱きついた。慌てて抱き留めた幸村が政宗を見遣ると、その隻眼には涙が光っている。
「アンタって……ほんッと、馬鹿だよなァ……」
「見損なわれたか」
「褒めてンだよ」
幸村は政宗の髪に顔を埋める。
 髪の香りが鼻腔をくすぐる。それは幸村の大好きな香りだった。久しく嗅いでいなかったその香りを胸一杯に吸い込み、心が幸せに満たされていくのを感じた。
「政宗殿……某は、どんなに長い間離れていようと、政宗殿への想いは変わらぬ。心の傷を癒すは容易くはござらぬが、某にも分けてくだされ。政宗殿の痛みを。さすれば少しは軽くもなろうかと」
「粋な事言ってくれンじゃねェか。痛みなンざ、アンタの顔見たらどっかに吹っ飛ンじまッたぜ」
「では、もう会いに参っても良いのであろうか」
「仕方ねェな。認めたくはねェが、やっぱ俺にゃアンタが必要みてェだ」
「それは某とて同じ。某は、あの庭木にござる」
そう言うと幸村は、一本の庭木を指差した。
「庭木ィ?」
「然様。木はどんなに水があろうと、日の光が当たらねば萎れて死んでしまい申す。
 某も同じでござる。政宗殿に会えねば萎れて死する。政宗殿は某にとって太陽なのでござる」
「ちょ、アンタ、よくそンな恥ずかしい事真顔で言えるな……」
「はは、照れずとも。顔が真っ赤になって、ますますあの赤い夕日と同じでござる」
「……もういいから、そのよく動く口を閉じやがれ」
そう言うと政宗は幸村に口付けた。
 その感触を確かめ合うように、何度も角度を変えつつ、暫しの間互いの唇を貪った。

 そして漸く唇が離れると、政宗はこう言った。

「よし!今夜は盛ッ大にPartyだぜ!!」




   -end-


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