奥州を発った政宗と小十郎が大仏殿に着くと、辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。
 大仏殿の周辺には松永の手下と思われる無数の兵が――――横たわっていた。
「これは…一体…」
「誰か、俺達より先に来てるみてェだな……」
 訝しみながら中へと進む。爆弾兵の爆弾が炸裂したらしく、あちこちで火の手が上がっており、そこでも横たわる兵が散見された。
 急ぎ足で歩を進めると、奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「貴様だけは許す訳にはいかぬ!覚悟致せ」
それは、政宗も小十郎もよく知っている声だった。
――――なんで、アンタが……!

 政宗と小十郎が大仏殿の最奥に辿り着くと、そこには松永久秀と対峙する幸村の姿があった。
「なんでアンタがここにいンだよ……!」
「政宗殿。思ったより早うござったな」
そう言って振り返った幸村は、これまで見た事もないほどの気迫を纏っていた。
 小十郎は目を見開いた。
――――これが、あの真田か……?
普段政宗と巫山戯合っている様子からは微塵も想像できない姿だった。これまで戦場で見た時の雰囲気とも全く違い、鬼気迫り、憎悪に燃えている。その双眸に宿る暗い焔は地獄の業火を連想させ、思わず固唾を飲んだ。
「苛烈苛烈。まさか竜の相手が武田の若き虎とは。実に意外だ」
松永は政宗を見て目を細める。
 政宗は囚われていた数日間を思い出し、松永への殺意を全身に漲らせる。
「松永ァ!人質と俺の刀はどこだ!」
「さて、ね。卿が私の元に戻ってくると言うなら、教えぬでもないが」
 政宗が反論しようとしたその刹那、既に幸村は槍を振るっていた。松永は辛うじて刀で受け止めたが、勢いに圧され後退する。
「政宗殿、この男は某が殺す。質は佐助が探っておる故、心配召さるな。下がられよ」
幸村のあまりの気迫に気圧されそうになるが、それを認める訳にはいかなかった。
「ッざけンじゃねェ!ソイツをブッ殺すのはこの俺だ。アンタにゃ関係ねェだろ!」
「関係ない訳がなかろう!某の大事な大事な政宗殿を傷つけた男でござる!この代償はその命でも軽いというもの!」
「なッ……!だったらその張本人の俺が雪辱を果たすのが筋じゃねェか!引ッ込ンでろ!」
 二人が言い争っている間、小十郎は松永と刀を交えていた。今回の事が腹に据えかねているのは小十郎も同じなのである。
 激しい剣戟の末、とうとう松永は大仏像まで追い詰められた。
「追い詰められるか…何事も経験だな 」
そう言って松永はにやりと嗤い、指をぱちんと鳴らした瞬間、大仏像とともに――――爆発した。
 一瞬の出来事だった。

 三人が呆気に取られていると、爆発で大穴のあいた壁の向こうから佐助が姿を現した。
「人質も竜の爪も無事だったぜー!」
その後ろから、人質に取られていた伊達軍の兵卒が出て来た。
「ほんじゃコレ返しとくね」
「おう、Thanks」
政宗は佐助から六爪を受け取る。
「筆頭ー!」
「片倉様ー!」
「おめェら、よく無事だったな。一先ず外に出るぞ」
彼方此方であがった火は広範囲に広がっており、このままでは焼け落ちるのも時間の問題だった。
 一同はこぞって大仏殿を走り出る。



 燃え盛る大仏殿から脱出したその直後、凄まじい地響きと共に大仏殿が崩れ落ちた。暗い夜空に火の粉が舞い、尚も燃え続ける炎が辺りを橙色に染めている。
 皆言葉を失くしその様を眺めていたが、やがて炎の勢いは失速していった。
 そこでふと政宗は幸村が何やら言いたげな顔で自分を見ているのに気づいた。政宗にも言いたい事は山程ある。
「小十郎、悪ィがアイツらと先行っててくれるか。そこの忍も」
「御意」

 そして、焼け落ちた大仏殿の前には政宗と幸村だけが残った。


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