奥州へ向かった幸村が気になった佐助は自身も奥州へ赴いた。
 伊達の屋敷近くの林の木の上から屋敷を窺っていると、幸村が出てくるのが見えた。半ば追い出されるように出てきた幸村に、佐助が声を掛ける。
「旦那!守備は?」
「さ、佐助!来ておったか」
佐助は木から飛び降りる。
「仲直りできた?」
「……仲直りどころか、金輪際会いたくないと申された……一緒にいるのがつらい、と」
「思ったより深刻だね。俺様ちょっくら中の様子探ってくるわ」
そう言って佐助は姿を消し、四半刻も経たぬ内に戻ってきた。
「旦那…竜の旦那、泣いてたよ……。一緒にいるとつらいけど、一緒にいられないのもつらいんじゃない?」
「意味がわからぬ。詰まる所、どちらなのだ」
「旦那には難しいかなー、こういうのは答えなんてないんだよ」
「む……」
「それと重要情報。これから大仏殿に竜の爪を取り戻しに行くらしい。竜の旦那拐した松永久秀がいるみたい」
 松永久秀。その名を聞いた途端、幸村の顔に怒りが浮かぶ。政宗を拐し、無理矢理体を奪った男。
「こないだ調べてわかったんだけどさ、その松永って男は、天下には興味がないけど、自分の欲しい物を手に入れる為なら手段を選ばないらしい。かなりあくどい、卑怯な手を使ってくるって。んで、取った人質はすぐ殺しちゃうみたいなんだけど……竜の旦那にはよっぽどご執心だったんだろうね」
そう言うと幸村にぎろりと睨まれた。
「……ごめん。でも、右目がついてるったって、竜の旦那、体は本調子じゃないだろうに大丈夫かね?」
「俺が行く」
「え」
「俺が先に行ってその松永とやらを殺す。そして政宗殿の刀を取り返す。それで問題あるまい。政宗殿を二度と危険な目には遭わせぬ」
 佐助は反論できなかった。幸村の鬼気迫る迫力に気圧されていた。戦場で『紅蓮の鬼』と称される時以上の迫力が、今の幸村にはあった。
――――あちゃー…旦那がこうなったら、俺様でも止められないよ……。
これ以上、伊達と松永との揉め事に首を突っ込むべきではない。頭領である武田信玄の許可も得ていない。
 しかし、幸村は一切の反論を許さぬ雰囲気を纏っていた。
――――ま、大将なら絶対『行ってこい幸村ァ!』って言うに決まってんだけど。
「佐助、大仏殿まで案内しろ」
「了解、っと」

 こうして、政宗達より一足早く、幸村と佐助は大仏殿に向かったのだった。


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