奥州へ戻った政宗は、屋敷の門を潜った途端、その場に頽れた。小十郎は大いに慌てふためき、意識のない政宗を部屋へ運び、すぐさま医者を呼び診せると、体の外傷は然程ひどくはないらしく、屋敷に帰り着いた安心感から気を失ったのではないかという事だった。
 右手首の治療を終えると、医者は部屋を後にした。
 部屋には、布団に横たわる政宗と、その傍らに座した小十郎のみが残った。
――――政宗様……おいたわしい……この小十郎が傍におりながら、お守りできなかった……。
小十郎は慙愧の念で一杯だった。
 それに、政宗の体に点在する紅い痕。それが何を意味するのかは、小十郎にもわかっていた。
 そう言えば――――小十郎は思いを馳せる。
 幸村は、それはもう政宗の事が心配で堪らない様子だった。
傍から見ていても充分すぎるほど伝わってきた。政宗が救出されたなら、暫くは傍を離れないだろうと思っていた。
 それが、漸く政宗と対面したというのに、小十郎が駆けつけてからは一言も発さず、ただ立っているのみだった。
――――真田、気づいちまったみてえだな……。
小十郎は嘆息する。
 はじめは幸村の存在をただ苦々しく思っていた。
幸村が来ると政宗は政務を疎かにし遊び呆ける事もしばしばで、小十郎は毎回苦言を呈する羽目になった。二人はとても仲が良かったが、喧嘩になる事も度々あり、酷い時は屋敷に被害が及ぶ事もあった。しかし幸村といる時の政宗は本当に楽しそうで、普段は見せないようなうきうきとした表情を見せる。そして、幸村を愛おしそうに見つめる政宗の眼差しに気づき、また幸村の双眸にも同じものを感じてからというもの、小十郎は二人の関係を黙認していた。口には出さなかったが、確かなものなど何もない戦乱の世において、せめて一時でも長く政宗の幸せが続く事を心から願っていた。
 それが、思いもかけない最悪の形で終焉を迎えてしまった。
――――なんで、こんな事に……くそっ!
小十郎は改めて自身の不甲斐無さに憤り、拳で強く己の膝を打った。



 それから政宗は昏々と眠り続け、目を覚ましたのは翌々日の朝だった。
んー、と一声発し目を開けた政宗に、慌てて小十郎がにじり寄る。
「政宗様、お目覚めで」
「小十郎…ここは…俺の部屋か」
上半身を起こそうとする政宗に手を貸そうとするが、政宗はそれを制し、自力で身を起こす。
「Don't worry, 平気だ。右手がちっと痛ェが」
手首に巻かれた包帯が痛々しかった。右の掌を握ったり開いたり繰り返し、その感覚を確かめる。
 その様子を見た小十郎は、こう切り出した。
「政宗様。此度の事はこの小十郎、お詫びの仕様もございませぬ。傍におりながらお守りできぬとは…斯くなる上は、腹を切る覚悟が出来ております」
「Don't be silly!アレはお前のせいじゃねェ。悪いと思ってンだったら、これからちょっと大仏殿まで付き合え」
「大仏殿、とは」
「Ha!決まってンだろ。俺の六爪と人質を取り戻しに行くンだよ。You see?」
「しかし、まだお体が」
「平気だッつッたろ。背中はお前が守れ」

 と、そこへ部屋の外から幸村の来訪を告げる声がかかった。


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