「政宗殿…………」
幸村は、自分以外誰もいない部屋で、独りその名を呼んでみる。
 あれから幸村は伊達の屋敷に逗留していた。政宗の居所が判明したらすぐに小十郎と共に其処へ向かう心積もりである。
 行方も安否もわからない政宗が心配で堪らず、何も出来ない焦りばかりが心中に堆積していくのだった。
 初めて政宗に出会ったのは戦場で、敵同士。にもかかわらず互いに惹かれ合い、自軍が同盟を結ぶ間柄になってすぐ親しい関係となった。
 だが今は戦乱の世。いつ同盟が反故になってもおかしくはない。国同士が戦になれば、政宗の首を獲る覚悟はしているつもりだった。
――――しかし。
もしかするともう政宗に会えないかもしれない、そう思うだけで胸が張り裂けそうになり、この世の終わりのような絶望に押し潰されそうになる。
 自分の中の政宗の存在の大きさを改めて思い知るのだった。

 と、そこへ佐助が姿を現した。
「旦那!竜の旦那の居場所、目星がついた!右目の旦那呼んでくれる?」
「なんと!でかしたぞ佐助!すぐに呼んで参る!」
幸村は慌てて廊下に駆け出していった。

 真田忍隊と黒脛巾が総力をあげて集めた情報によると、下総に松永の別宅があり、
張り込んだところ松永はここ最近はずっとその屋敷に入り浸っているとの事だった。
「中に忍び込めたら良かったんだけど、警備が厳重で無理だったって。俺様が行けば良かったよホント。だからまだ竜の旦那が絶対そこにいるっていう確証はないんだけど、」
「忍び込めぬなら正面突破でぶち破るまで!如何様な門であろうと我が槍は阻めぬ!待っていてくだされ政宗殿ぉぉぉぉぉあ!」
「真田、ちっと落ち着けや。しかし他になんの手掛かりもない今、そこへ行ってみる他なさそうだな」
軍を率いて行くと目立ち警戒されるという理由から、幸村、小十郎、佐助を含むごく少人数で下総へ向かう事となった。
 居ても立ってもいられないのは皆同じで、すぐに出立したのだった。



 常陸と下総の国境を越え、件の屋敷が近づいてくると、突然大量の矢が射掛けられた。と同時に林の中から大勢の兵が躍り出し、多様な武器を手に襲い掛かってきた。松永の配下が待ち構えていたようだ。
 しかし雑兵がいくら束になろうとこの三人に敵う筈もなく、次々に薙ぎ倒されていく。
 と、そこへ一人の忍らしき風体の男が立ち塞がった。
「そのナリ、あんたもしかして伝説の…?」
佐助の問い掛けには答えず、十文字の大手裏剣を投げつけてくる。佐助は咄嗟に自分の手裏剣で跳ね返した。
「チッ、ここは俺様に任せてくださいよっと。旦那たちは先へ!」
「承知!」
「任せたぞ、佐助ぇ!」
佐助と配下の忍はその忍を取り囲み、手裏剣と忍刀による激しい剣戟が始まった。

 小十郎と幸村は雑兵を斬り倒しながら屋敷を目指し進んでいたが、異様な雰囲気を察知し、足を止めた。
 カツッカツッと地面を金属で弾く音が断続的に聞こえ、前方から髑髏を思わせる白い面頬を装着した三人組が現れた。三人とも同じような出で立ちをしていたが、よく見ると若干色や柄が違っているようだ。一人は刀を、残る二人は槍を手にしている。
「来たか」
「ああ」
「仕方ない」
そう言うや否や、一斉に斬りかかってきた。
――――こんな所で足止めくってる時間はねぇ…こうしてる間にも、政宗様に何かあったら…!
「真田!お前は先に行け!」
「片倉殿!」
「早く行かねぇか!政宗様を頼む!」
「かたじけない…!」
幸村は槍の攻撃を跳ね返すと、脇目も振らず屋敷へと駆けて行った。
 小十郎は本心では自分が真っ先に政宗のもとへ駆けつけたかったが、政宗と幸村の気持ちを慮り、先に行かせたのだった。



 幸村があと少しで屋敷に辿り着くというところで、突然屋敷が爆発した。予想もしていなかった事態に呆然となる。
 煙幕が晴れ、半壊した屋敷が見え始めると、幸村は我に返り祈るような気持ちで屋敷へと走り出した。
――――政宗殿、どうかご無事で……!
屋敷の門前まで来たところで、前方に思わぬ人物が姿を現した。
「な!ま、政宗殿!!!!!!」
 幸村達が捜し求めていた、伊達政宗その人だった。


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