やがて松永が果て、政宗の中で余韻に浸っているその隙を政宗は見逃さなかった。
 右足に渾身の力を込め蹴りつけると同時に松永の腰から脇差をするりと引き抜いた。倒れた松永の腹を踏みつけ、その喉元に切っ先を突きつける。
 政宗の左目は殺気でぎらぎらと鋭い眼光を放っていた。
「……これは驚いた、何故動けるのかね」
「ンな事ァどうでもいい。枷を外せ」
「ふむ、体が慣れてきたところに香の調合が甘かったか……もっと早くに壊してしまうべきだったな。卿に執着し過ぎたようだ」
「あいにく竜はpetにゃ向かねェぜ。さっさとしねェか!」
松永は懐から小さな鍵を取り出し、無言で差し出した。
 鍵を持ってきていた事に内心安堵しつつ政宗がそれを受け取った瞬間、松永は政宗の手を掴んで引き倒し、その隙に扉に走り寄る。
「てっめェ……待ちやがれ!人質と俺の刀は何処だ!!」
「返してほしくば大仏殿へ来るといい。ここから逃げ出せれば、の話だがね。では私はこれで失礼するよ」
そう言うと松永は扉を開け走り去った。
――――ちッ、逃げやがったか。

 しかし今は枷を外す事が先決である。枷の鍵穴に鍵を挿して回すと、枷が外れ、がちゃりと落ちた。ずっと枷が填まっていた手首は皮が剥け、血が滲んでいる。
 扉を押してみると、鍵はかかっていない。念の為、先程松永から奪った刀を携行する。
 恐る恐る扉を軋ませながら開けると、待ち伏せはされておらず、誰もいなかった。
 部屋を出ると、そこは地下だった。壁は岩肌が剥き出しで、天然の洞穴を利用した地下壕のようだ。
 突き当たりで梯子を登ると、一階へ出た。やはり松永も誰もいなかった。窓からは陽光が差し込み、数日振りに目にするその明るさに、一瞬目が眩んだ。
――――地底人にでもなっちまった気分だぜ……取り敢えず何か着ねェとな。
手近な部屋を漁り、適当な襦袢と長着を着て帯を締める。
 するとその時、微かな異臭を嗅ぎ取った。
――――これは……火薬の匂いだ!
匂いの正体に気づくと同時に走り出す。
 ずっと鎖に繋がれていた体はふらつき足が縺れたが、兎に角走った。
 広い屋敷で漸く出口を見つけ、転がるようにしてそこから出た瞬間、屋敷が爆発し、爆音が轟いた。爆風に吹き飛ばされたが、幸い負傷はしていない。
――――つくづく爆弾好きなオッサンだぜ。
煤を払い、立ち上がった。


 数日ぶりの外の空気。日の光。あの忌々しい鎖から解き放たれた事を改めて実感し、安堵する。
 辺りを見回すと全く人の気配がなく建物も他にない事から、随分寂びれた場所のようだ。
 自分が今いる場所もわからず行く当てもなかったが、松永が戻ってくる可能性を考え、その場を離れる事にした。

 屋敷の門を出て数歩も歩かぬうちに、前方から此方に走ってくる足音が聞こえてきた。
――――松永の手の者か。
手に持っていた、松永から奪った刀を構える。
 音が近づき、その者の姿を視認した瞬間、政宗は目を見開いた。
――――なんで、アンタがここに………。



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