伊達の陣営は、筆頭である政宗が拐引された事で大騒ぎとなっていた。
 しかし政宗の不在が他軍に知れるのは拙い。これを好機に侵略せんとする軍が出てくる危険があるからだ。
 表向きは常と変わらぬ様を装い、水面下で懸命に政宗の捜索が続けられていた。


 
 真田幸村が、伊達屋敷を訪れた。
 幸村は伊達軍の内情については全く知らなかった。いつものように政宗に会いに来たのである。
 門兵に政宗の不在を告げられたが、普段と違った門兵の様子に不審を感じた幸村は、片倉殿にお目通り願いたい、と申し出た。片倉小十郎は自分を疎ましく思っているようだが、政宗の身に何かあったのなら教えてくれる筈だ、と思ったからである。

 目通りの許可が下り、屋敷の一室へと通される。
 部屋には小十郎が一人で座っており、久方ぶりに会った彼は少しやつれていた。幸村はそんな彼の様子に事態の深刻さを察知し、政宗の事を問うた。
「真田…お前にゃ本当の事を言っても良さそうだな。実は、政宗様は松永久秀とかいう野郎に拐された」
小十郎は経緯を説明した。
「な、なんと!その松永なる輩の居所も知れぬとは…!」
事態の深刻さは己の想像の域を遥かに超えており、幸村は愕然とした。
「俺がついていながらこの様だ…腹を切る覚悟は出来てる。政宗様を連れ戻した後にな。出来る事ならこの俺自ら探しに行きてえところだが、政宗様ご不在の今、あてもなく俺がここを離れる訳にはいかねえ。まぁそういう訳で、折角来てもらったってのに悪いが、お引取り願おうか」
「及ばずながらこの真田源次郎幸村、ご助勢致しますぞ!政宗殿の一大事にじっとしていられる筈もなかろう!その松永とやらの居所、某配下の忍隊にも探らせまする。斯様な事案は手が多ければ多いほど良いというもの」
小十郎は逡巡する。
 この一件は伊達の内部の懸案であり、他国の者の手を借りる事は得策とは言い難い。しかし何の手掛かりもない今は、少しでも人手が欲しいのも事実だった。
「いつもならお前の手なんざ借りねぇと突っ撥ねるところだが、今は猫の手も借りたい有様だ…すまねぇ真田、恩に着るぜ」
深々と頭を下げた小十郎に、幸村は面食らった。
「か、片倉殿、頭をお上げくだされ!政宗殿の為とあらば、この幸村、惜しむものなどござりませぬ!では急ぎ外で待機させている佐助に頼んで参る故、これにて失礼致す」
幸村は小十郎に一礼すると、早足で屋敷を後にした。

 幸村が屋敷を出ると、近くの木の上から音もなく影が降り立った。配下の忍、猿飛佐助である。
「旦那、かなり拙い事態になっちまってるみたいだね」
「聞いておったか」
「只事じゃなさそうだったもんで」
「では、頼まれてくれるな」
「まぁ伊達の黒脛巾も動いてると思うけど、俺様も探ってみるよ」
 黒脛巾とは、伊達の忍集団である。真田や上杉の忍とは違い戦には姿を現さず、裏での諜報活動を主軸とした集団だった。
「任せたぞ。俺は暫しの間この屋敷に滞在させていただく故、報告は此処へ」
「了解、っと」
佐助はまた音もなく姿を消した。
 幸村は一旦甲斐へ戻る事も考えたが、政宗の居場所が判明したら真っ先に駆けつけたかった。それならば同一の目的を持つ者達と同じ場所に留まった方が良いと判断したのである。
――――政宗殿、どうか無事でいてくだされ。貴殿の身に何かあれば、某は……!
 幸村は政宗の無事を一心に祈りつつ、再び屋敷の門を潜った。



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