目が覚めると、薄暗い部屋にいた。
 全く見覚えのない部屋だった。片隅に置かれた一本の蝋燭のみが光源である。
 身を起こすと、じゃらり、と金属の擦れる音が響いた。見ると右手首に鉄の枷が填められ、そこから鎖が壁に繋がっていた。
 部屋の広さは四畳半ほどで、窓はなく、出入り口は堅牢そうな木製の扉のみである。
床は板張りで、逆卍の畳敷きでない事から切腹部屋ではないようだ。
――――牢か拷問部屋の類か。ちッ、捕まッちまッたか……
 目を落とすと、体には何も纏っていない。
 朦朧としていた意識が明瞭になるにつれ、伊達政宗は自身の置かれた状況に焦燥した。

 鎖を強く引いたり壁を蹴ったりしてみたが、びくともしない。
 どうにか脱出できないものかと試していると、扉が重そうに軋みながら開いた。
「おや、お目覚めのようだね。ご機嫌は如何かな」
姿を現したのは、乱世の梟雄の異名を取る松永久秀。
「私は松永弾正久秀。いや、名などどでも良いな。重要なのは私が卿を陥れた張本人だという事だ」
「てめェ…どういうつもりだ…!」
政宗の隻眼がぎらりと殺気を帯びる。



 数時間前――――
 見張りに当たっていた伊達軍の兵卒を人質に取られ、『竜の爪』と呼ばれる政宗の六爪を要求された政宗は、片倉小十郎ら数人の家臣を従え、人質を取り戻すべく指定された場所へ向かった。
 そこへ松永が現れ、地面に仕掛けられていた爆弾が爆発し――――政宗が憶えているのはそこまでだった。



「ふふ、竜の爪は確かにいただいたよ。良い刀だ…しかし今回は思いがけずそれ以上の宝を手に入れた」
「…………?」
「わからないかね?卿の事だ。よもや一糸纏わぬ独眼竜がこれ程美しいとは、嬉しい誤算だよ」
舐め回すようなねっとりとした松永の視線に、思わず背筋に戦慄が走る。
「俺を…どうするつもりだ…」
「決まっているだろう?宝とは、傍に置き、愛で、そして――――飽きたら壊すのだよ」



   次へ  戻る





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -