「だいぶ濡れちまったな」
額に張り付いた濡れた前髪をかき上げながら政宗は嘆息した。
 林道を歩いている途中で激しい夕立に見舞われた政宗と幸村は、近くにあった寺に駆け込み、雨宿りする事にしたのだった。
 寺といっても無人の破れ寺で、門に記された寺号は掠れて読めず、建物の傷み具合からも長い年月打ち捨てられ放置されたままであるようだ。
 政宗が雨で体温を奪われ冷えた体を震わせると、寒うござるか、と幸村は政宗を抱き寄せる。
「暑っ苦しいのもこういう時だけは便利だぜ」
「貴殿はまこと口が悪うござるな」
幸村は政宗の言い様に苦笑しつつも、その冷えた体が己の腕の中で温まっていくのを感じ、それも一理あるなどと思った。
 頼りない屋根を打つ雨音は激しさを増し、二人のいる本堂らしき部屋の隅では雨漏りが水溜りを成している。当分は止みそうもなかった。


「政宗殿……」
息を荒げ、腰を撫で回しながら自分を真っ直ぐに見つめる熱の籠った眼差しにその意図を感じ取り、政宗は目を丸くした。
「こっ、ここで、かよ!?」
「駄目、でござろうか」
普段はちょっとした事ですぐに破廉恥破廉恥と喚く癖に、一旦火がつくと止まらないのは大抵幸村の方なのだ。
 それを毎回許してしまう自分も、幸村をとやかく言えた義理ではないのだが――――これが所謂惚れた弱みかと再認識しつつ、政宗は条件つきで許諾した。
「……一回だけだからな」


幸村は政宗に口づけながら着物を脱がせていった。
「ん……ふ……」
舌を絡ませる深い口づけは体の奥に熱を齎し、抗う意思を飲み込み、政宗の体から力が抜けていく。
 幸村は自分も剥ぎ取るように着物を脱ぐと、床にそれを敷き、その上に政宗を横たえた。
 舌で首筋をなぞりながら、胸の小さな突起を指先で弄ぶ。
「あ……やめっ……」
幾度も肌を合わせるうちに、甘い抗議は更なる要求であると幸村は理解していた。指で摘まんだり弾いたりしつつ、もう片方を口に含み、舌先で転がし、吸い上げる。
「あっ……ふぁぁ……ん……ゆき、むら…」
せがむような声に誘われ、既に屹立している政宗自身に手を伸ばし、先端から溢れ出した蜜を絡め軽く扱いた。
「んっ、んんん……」
嬌声は口を塞いだ幸村の唇に飲み込まれ、舌を強く吸われ、政宗は頭の芯が蕩けていくような感覚を覚える。
 唇が離された途端、甘い喘ぎが再び零れ出した。
 幸村は政宗の足を開かせその中心に顔を埋めると、先端を口に含み、舌先で鈴口を割りながら止め処なく溢れる蜜を啜った。
「やぁっ……あ……んっ」
政宗は夢中で幸村の髪を掻き回す。
 口内の政宗自身に舌を絡め、幸村は白い内腿を撫でつつもう片方の手で奥の後孔に触れる。
「あ、待っ……あああっ」
幾度となく幸村によって暴かれ教えられた体は障りなく幸村の指を受け入れた。
「幸、村……あっああっ……ゆっ、ゆきむらぁ」
切羽詰った声で名を呼ばれ、幸村は政宗自身から口を離し、政宗の顔を覗き込む。
「如何された?もっと…でござるか?」
挿入したままの指を中で動かしながらわざと意地悪く囁く。
「も……だめ……早く……寄越しやがれっ……んんっ」
もっと焦らして政宗の反応を愉しむつもりだったが、熱に浮かされたような潤んだ瞳で見つめられねだられ、余裕を失くした幸村は指を引き抜いて怒張した己自身を擦りつけ、滑り具合を確認するとゆっくり政宗の中に沈めていった。
「あぁぁっあっ……ゆ、きむ、らぁっ」
政宗の背が仰け反る。
 抜き差しを繰り返し、速度を上げると政宗は一際高い嬌声と共に果てた。それに伴って締め付けられた内壁に堪え切れず幸村も程なく政宗の中に精を放った。

 そして幸村は困惑した。
 達したと言ってもまだ己自身は怒張したままで、もっともっと政宗の中を堪能したいと主張している。
 普段ならこのまま二度目に縺れ込むところなのだが、今日ははじめに一回だけと釘を刺されているのだ。約束を違えるのは武人として恥であるし、なにより政宗の機嫌を損ねる事は避けたかった。
 身を切られる思いで引き抜こうとした幸村に、
「抜くんじゃ、ねェ……」
政宗の両腕がしがみついてくる。
「ま、政宗殿……?」
予想外の展開に幸村は慌てふためいたが、一回だけでは、などと余計な事を口走るつもりは毛頭なかった。
 ここは俄雨の与えてくれた僥倖だと思う事にし、自分にしがみついている政宗を抱き起こし膝に乗せた。

 自分を求めねだるなど、滅多に甘えたところを見せない政宗にしては非常に珍しい事だった。
 幸村は昂ぶるままに政宗をきつく抱き締め唇を合わせ、冷めぬ熱を互いに確かめ合う。
 政宗は一回だけと言った己の言葉を忘れた訳ではなかった。ただ政宗も猛々しいままの幸村をもっと堪能したいという思いに駆られ、それが抜かれようとするのが堪らなかった。
 廃寺という退廃した雰囲気と、降り始めの雨の匂いに纏わりつかれ、どこか普段の自分と違う自覚もあった。
二人の息遣い以外には激しい雨音のみしか聴こえない。まるで世界に自分達しか存在していないかのような錯覚すら覚えた。
「政宗殿……貴殿への想いは日毎募るばかりでござる」
「俺だって……。好きだぜ、幸村……」
その言葉を聞き終えると同時に幸村は政宗の腿を下から抱え、揺さ振り、突き上げる。政宗の爪が背に喰い込むのも厭わず、幸村は思いの丈を政宗の体にぶつけた。
 驟雨に切り取られた空間で、互いに快楽の追求に没頭した。


 気づけば雨音は止んでおり、障子の破れ目から外を見るとすっかり雨は上がっていた。
「政宗殿、雨は上がり申したが如何致す」
「あー、なんか動きたくねェな……腰痛ェし」
そのまま一夜を明かす事に決めた二人は、抱き合ったまま次はいつ訪れるとも知れぬこの至福のひと時が少しでも長く続く事を互いに内心で願いつつ、いつしか眠りの淵へ落ちていった。






2010.09.28

【後書】
ストーリー性、皆無です。はい。
なんでそんなとこ二人で歩いてたんでしょうね。
私にもわかりません。
ただ単に、いたしてる二人を書きたかっただけという(笑)











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