「政宗殿ー!」
「くっつくんじゃねェよ、鬱陶しい」
背後から抱きついてきた幸村を押し退けると、文机に向き直る。
 背中に感じる幸村の視線が痛い。幸村が口を尖らせ上目遣いで恨めしげな表情をしている事は、容易に想像できた。
 しかし今の自分には目の前の政務を片付ける事が先決である。背を向けたまま、書きかけの書状に筆を走らせる。
「退屈でござる!某、猛烈に退屈でござる!政宗殿に構っていただきとうござる!」
大の字になって手足をじたばたさせながら喚く幸村に、筆を持つ手が一瞬止まる。
 しかしここで振り向いては幸村の思う壷である。煩いと怒鳴りたい衝動を抑え、筆に墨を含ませていると、背後で一際大きな声が上がった。
「あ痛ぁ!政宗殿!足が!足がつり申したぁぁぁ!」
振り返ると幸村はふくらはぎを押さえて呻いている。
「あーもう!何やってんだよアンタは!」
筆を置いて幸村に向き直り、座らせてふくらはぎを揉んでやった。
「政宗殿が某を差し置いて余所の男に文など書かれるからこのような事になるのでござる」
膨れっ面で文句を垂れる幸村に呆れ、溜息が出た。
 自分とそれほど歳は変わらない筈なのになぜこうも稚けないのだろう。厄介に思う反面、その素直さや奔放さが羨ましくもあった。
「あのな、アポなしで来るアンタが悪いんだろ。先触れくらい寄越せ」
使者をたて正式に訪問していたのは初めのうちだけで、最近ではいきなり訪れる事の方が多い。幸村の住む上田からここ奥州までは結構な距離があるが、この男は暇を見つけてはやって来るのだった。
「少しでも早く政宗殿にお会いしたいがゆえに、居ても立ってもいられないのでござる」
少しすまなそうにぽつりと呟き、こちらをじっと見つめる。
 幸村はずるい、と思う。
 このどこまでも真っ直ぐな目で見つめられると、大抵の事は許せてしまうのである。
 そんな自分に不甲斐なさを感じないでもなかったが、不思議と悪い気はしなかった。
「あとちょっとで終わるから、大人しく待ってろ。な?」
幸村の頭をくしゃくしゃと無造作に撫でると、また文机に向かい筆を取った。


「ちょ、待てよ……待てったら!おい!」
結局政務はなかなか片付かず、漸く落ち着いた時には既に夜半を過ぎていた。
 湯浴みを終えて幸村の待つ部屋へ戻ると、いきなり押し倒されたのである。
「これ以上は待てぬ。ずっと我慢しておったのでござるぞ」
荒々しく激しい口づけに、抗う意思を奪われた。
 何度も角度を変え深く舌を絡ませながら、幸村の手が少し乱暴に浴衣の袷をはだける。
 口を離すとすぐさま首筋に唇が落とされ、露わになった胸まで舌が這わされると、その中心の突起が幸村の口に含まれた。甘い刺激に体が仰け反り、息が荒くなる。
「政宗殿のここは敏感でござるな。少し触れただけですぐ固くなる」
「そういうこと、言うなって……んっ、は、恥ずかしいだろ…」
「恥ずかしがる政宗殿が見たいのでござる」
突起を舌で愛撫されながら下帯を解かれ、既に屹立している己自身を指先で撫で上げられると、それまで堪えていた声が漏れる。咄嗟に手で口を押さえ声を殺すが、幸村に手首を掴まれ、夜具に押し付けられた。
「我慢なさらず、もっと声を聞かせてくだされ」
耳朶を甘噛みしながら囁かれ恥辱を煽られると、堰を切ったように声が溢れ出した。


「やめっ、…幸村!それキツいって……!」
内腿を押さえられ、足を限界まで大きく開かされる。その中心を幸村自身が刺し貫いていた。
「幸……い、いてェんだよ…!足……んぁあ!」
「暫し、辛抱してくだされ」
幸村が強く腰を打ちつけると結合が深くなり、より奥まで中を抉られ、言い知れぬ快感が全身を支配する。
「やっ!あっ!あ…ぁあ!すごっ…ふぁああ!」
「ま、政宗殿……そんなに締めつけられると、某もう…!」
幸村の動きが激しさを増し、やがて熱い飛沫が注ぎ込まれた。


「くっそ、まだ痛ェ。馬鹿力で押さえやがって」
ずきずきと痛む股関節をさすっていると、幸村が背後から抱き締めてきた。
「少々無理を強いてしまったようでござるな。しかし先程の政宗殿はかなり気持ち良さげに見受けられたが」
図星を突かれて口篭もる。
 首筋にかかる息がくすぐったくて首を竦めると、幸村が顔を摺り寄せてきた。
「毎回あの体勢で致せば体が慣れるのでは」
「Bullshit!てかアンタ、なんで前からばっかりやりたがるんだ?俺としちゃ後ろからの方が体がラクなんだが」
幸村の項から手繰り寄せた後ろ髪を弄びながら問う。
「それは……後ろからだと政宗殿の顔が見られぬゆえ」
「顔?」
「然様。最中の政宗殿はそれはもう艶っぽく悩ましげな表情をされる。それを見ると某、どうしようもなく興奮致すのでござる」
「……アンタ、まさかずっと俺の顔見てんのか」
「無論」
「やめろよな、そういう事すんの」
少し拗ねたのを感じ取ったのか、幸村は少し体をずらすと横から政宗を覗き込んだ。
「政宗殿。某は政宗殿とずっと一緒に居る事が叶わぬゆえ、あらゆる政宗殿をこの目に焼きつけておきたいのでござる」
じっと見据えられ、再認識する。やはり自分はこの双眸に弱いのだと。そして、それを堪らなく愛しいと感じる自分を。
 結局こうやって自分はこの男の全てを許してしまうのだろう。自嘲気味にくすりと笑い、幸村の顔を引き寄せた。






2010.07.07

【後書】
ダダこねてジタバタして足がつるとか…(笑)
これまで、幸村がバカなことをしでかす話をいくつか書いてますが、
載せる時はいつも「りりしい幸村が好きな人がこんな話を読んだら怒るのでは」と内心びくびくしていますυ
自重すべきか。










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