なぜこんな事をしているのだろう。青白い月の光に照らされた政宗を見上げながら、幸村は自問する。
 少し前まで、互いに相手を討たんと命懸けで戦っていたはずだった。



 川中島での武田軍と上杉軍の戦に突如乱入してきた第三の勢力があった。奥州の伊達軍である。
 伊達軍の駆逐を命じられた幸村は、伊達軍の筆頭である伊達政宗と対峙し刃を交えていたが、上杉の忍隊の急襲を受け、政宗とともに崖下へ転がり落ちたのである。



 既に日は沈み、遮る雲のない満月の光が辺り一面を青く照らしている。
 崖から落下した際に足を挫いた幸村は、川べりに腰を下ろし、痛めた足を川の水で冷やしていた。
 晩夏の蒸し暑さの中、ひんやりした水が心地良い。痛みがすーっと引いていく気がした。
 傍らに腰を下ろした政宗を見遣る。
 彼は忍隊の苦無で腕に受けた傷を洗い流していた。水に濡れた白い肌が、月光を受け煌々と輝いている。
 兜を外し上半身が露わになった彼の姿は、幸村にとって意外だった。
 奥州の独眼竜――――その武勇は幸村も聞き及んでいたが、これ程の美丈夫だとは思ってもみなかったのである。
 じっと見ていると、目が合った。政宗は不満そうな顔で幸村を見つめた後、嘆息交じりにやれやれと呟いた。

 ほんの少し前まで命のやり取りをしていた相手と、川原で肩を並べて座っている。
 滑稽だ、と思った。同時に物足りなさを感じた。
 政宗と戦っている時は、強い相手とまみえた喜びに体が打ち震えていた。これ以上ない程に充足していたのである。
 それが突然、決着をつけぬまま終わってしまった。昇華し切れなかった昂ぶりが、胸の奥で燻ぶっている。

 物足りねェ、そう言うと政宗は川面から幸村に目線を移し、アンタはどうなんだ、と問うた。幸村は首肯する。
 しかし武器もどこへ行ったかわからず、足がこの状態では――――そう口を開きかけたその時、政宗が顔を近づけてきた。
 意図がわからず政宗の顔を見つめていると、肩を押さえられ、そのまま近づいてきた政宗の唇が、幸村のそれと重なる。
 驚いて政宗を押し退け、どういうつもりかと問えば、政宗は熱の篭った隻眼で幸村を睨める。
 目が離せなかった。今足りないと感じているもの、欲しているものがそこにある気がした。
 もっと熱くさせてくれよ、そう言うと政宗は再び幸村に口づける。唇を吸われ、吸い返す。唇を開けば政宗の舌が侵入してくる。自分の舌を絡ませ、そのまま政宗の舌を吸った。
 何度も角度を変えながら、深く口内を犯し合う。舌を絡ませ合ったまま、政宗は幸村の装束を脱がせていった。
 政宗は幸村の首筋から左肩に指を滑らせ、上唇をぺろりと舐める。その扇情的な仕草に、幸村は体の中で燻ぶっていた種火が大きく燃え盛り始めるのを感じた。



 政宗に跨られた幸村は、己自身を政宗の中心に咥え込まれている。
 幸村の胸に手をつき、眉根を寄せた悩ましげな表情で腰をゆっくりと動かす政宗を、幸村は見上げていた。
 青白い月の光に照らされたその引き締まった肢体を見上げながら、幸村は自問する。
 なぜこんな事をしているのだろう。
 少し前まで、互いに相手を討たんと命懸けで戦っていたはずだった。今、その相手と体を繋げているのである。
 殺し合いとは対極に位置するこの行為になんの意味があるのか。あるとすれば、それは――――擬似行為だ。
 刃を交えている時と同じ昂ぶりを、今感じている。
 その昂ぶりが昇華される事なく打ち切られ持て余されたこの体内の熱を、ただ開放したかった。
 体を繋げることによって、相手を手に入れたという錯覚を欲しているのかもしれない。自分も、そして政宗も。
 政宗の薄い唇から切なげな吐息が漏れる。
 吐息に嬌声が交じる度に中が締めつけられ、言い様のない快感が齎される。その快感のみが今幸村の渇きを癒し、幸村を満たす事のできる唯一のものだった。
 更なる快感を欲し、幸村は政宗の腰を掴むと下から突き上げる。政宗の背中が仰け反り、嬌声が高くなる。
 潤んだ瞳で見下ろされ、もっと寄越せと喘ぎながら求められ、幸村は更に激しく政宗を突き上げた。
 快楽のままに互いの身を貪り、昇りつめていった。



 翌朝、政宗は探しに来た家臣と連れ立って去って行った。
 幸村はその背を見送りながら、また胸の奥に渇きを覚える。昨夜感じた充足感は跡形もなく消え、これまで感じたことのない寂寥感に戸惑った。
 再び刃を交えれば、満たされるだろうか――――。

 独眼竜、伊達政宗。その名が幸村に刻まれる。

 痛む足を引き摺りながら、幸村も歩き出した。






2010.07.04

【後書】
「伊達政宗か。オッケー、刻んだ。今度はお前が俺を刻め。俺の名前を、幸村という名を!」
中の人つながりで(笑)
衝撃のぉ!ファーストブリットォォォォーーーー!!
悪ノリご容赦。

あ、作中では「晩夏」は夏の終わりではなく陰暦6月として使っています。









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