伊達政宗は困惑していた。
 なぜ自分が非難されるのかわからなかった。
 客人の持参した土産のみたらし団子を、その客人・真田幸村と談笑しながら食べていた、その時。幸村が唐突に自分を非難し始めたのである。

 真田幸村は憤慨していた。
 幸村は団子に目がない。百戦錬磨の武将にしては珍しく甘味を好み、取り分け団子に耽溺しており、戦のない時分には毎日のように口にする有様である。
 好きな物を好いた者と共に食べれば殊更美味だろうと思い立ち、奥州の伊達政宗への手土産としてみたらし団子を持参したのだった。
 上田から奥州は近くはない。みたらし団子を土産に選んだのは、醤油餡が団子全体にからんでいる為、道中の乾燥を防げるとの配下の忍の助言によるものである。
 その団子の最後の一本が目の前で食べられてしまった。信じ難い事態に愕然とし相手をなじった幸村に、あろう事かその相手はたかがそんな事でと言い放ったのである。到底黙っている訳にはいかなかった。
「政宗殿!最後の団子を某に断りもなく食べてしまうとはなんと意地汚い!奥州筆頭の名が泣こうぞ!」
「なんだよそれ。アンタの手が止まってたから、もういらねェのかと思ったんだよ」
普段なら、最後の団子を他人に食べられるなどという失態を晒す幸村ではない。しかしこの日は違った。
 その原因は政宗にある。政宗が団子を食べた際に親指についた醤油餡を舌先で一舐めし、口を窄めて指先をちゅ、と吸った。眉間にしわを寄せ気難しい顔をしている事の多い政宗だが、ごく稀にそういった無防備な仕草を見せる。
 幸村はそれに見惚れてしまい、その間に政宗が団子を食べてしまったのである。
「仕草一つで某を虜にし、その隙に団子を奪うとは……!独眼竜、恐るべし!」
「言ってる意味がわからねェんだが。まァその、黙って食っちまったのは悪かったよ」
一応自分にも非があるので謝ってはみたものの、まだ幸村は脹れっ面である。
 その時、政宗にある考えが閃いた。
「ったく、意地汚ェのはどっちだよ。ちょっとここで待ってろ」
そう言うと政宗は部屋を出て行った。


 しばらくは部屋にある書物を読んで時間を潰していた幸村だったが、政宗は一向に戻って来ない。はじめは厠にでも行ったのかと思っていたが、それにしては時間がかかり過ぎている。
 もしや先ほど自分が非難した事を怒っているのではないか。幸村がそんな不安に駆られ始めたその時、すっと襖が開き政宗が入ってきた。
 政宗が手にした盆を卓上に置くと、そこには笹の葉を敷いた漆の皿に鮮やかな若草色の食べ物が乗っている。
「待たせたな。これ食って機嫌直せ」
思いがけない展開に戸惑う幸村だったが、初めて見る食べ物に興味を引かれ、食べてみる事にした。
 平楊枝で割ってみると、若草色の部分は餡のような質感で、中には餅が入っている。
おそるおそる口へ運び、咀嚼し、嚥下する。
――――美味い!
一口食べてみて、幸村は驚きを隠せなかった。
 その若草色の餡には小豆餡と違い独特の青臭さがあったが、甘味と少しの塩味で味付けされたそれは非常に美味で、餅とともに食する事で一際引き立っている。
「こ、これは……!美味でござる!某、初めて口に致したが、この甘味、名はなんと」
「それは“ずんだ餅”っつってな、枝豆をすり潰して作ってある。美味ェだろ」
「さぞ名のある老舗の甘味処の品でござろう!」
「何言ってんだ、俺が作ったんだよ」
きょとんとする政宗を見ればたすきを掛けている。ここで幸村は二度目の衝撃を受けた。
「政宗殿は、文武両道のみならず料理にも長けておられるのでござるな!」
「自分に出来ねェ事があると気に入らねェ性質でな」
「感服致した!是非某の嫁に」
「I refuse!!バカな事ぬかすな!ま、武だけのアンタとは違うって事だ」
口角を上げて意地の悪い笑みを浮かべる政宗に、幸村も負けじと言い返す。
「そ、某とて武のみではござらぬ!」
「ほー、じゃ他に何が出来るんだ。言ってみろよ」
「甲斐の団子ならば一口食べればどの店の団子かぴたりと言い当てる事ができ申す!」
得意満面に言い切る幸村に、政宗は呆れて声が出なかった。
 そんな微妙な空気をよそに、幸村は食べる手を休めず店ごとの団子の特徴を話し続ける。そして一つの要望を口にした。
「しかしこのずんだ餅とやら、まこと美味でござる。良ければ明日も作ってくださらぬか。某、政宗殿の作るところを見てみとうござる」
目を輝かせた幸村の賞賛に気を良くした政宗は、それを快諾した。



 明くる日。伊達屋敷の厨房に、政宗と幸村の姿があった。
 昨日と同じようにたすきを掛けた政宗は、鍋を火にかけ、朝一番に採れた枝豆を枝から切り離し、水で洗う。
 幸村はその様子を後ろから見ていた。昨日も思った事だったが、たすきを掛けた政宗は妙に艶っぽく、しかも今日は邪魔だからと言って髪を結っている。その姿に見惚れていたのである。
 鍋の湯が沸き、政宗が枝豆を鍋に投じたその時、幸村の手がするりと政宗の胸にまわされた。
「こら、出来上がるまで大人しく待ってやがれ」
後ろから政宗に密着した幸村は政宗の言葉に耳を貸さず、政宗の着物の袷から手を滑り込ませる。胸の突起を探り当てると、指で軽く摘まんだ。
「んっ……!ばか、やめろって!」
政宗は幸村を諌めたが、幸村の手は愛撫を止めようとはしない。
 幸村はどうしようもなく欲情していた。たすきを掛けて料理にいそしむ政宗の白いうなじに、その後れ毛に、幸村は昂ぶる情欲を抑えられなかった。幸村は政宗の着物の裾を捲り上げ、下帯の上から政宗自身を柔らかく揉みしだく。
 鍋の中では枝豆が茹で上がっている。
「幸、村……枝豆が……あっ……」
「枝豆より政宗殿が食べとうござる」
耳に息を吹きかけるように囁かれ、背筋がぞくぞくと粟立った。ゆうべ散々した癖に、と内心毒づく政宗だったが、既に政宗自身は幸村の愛撫で屹立し、下帯がはち切れそうになっている。幸村は政宗の足を開かせ手際良く下帯を剥ぎ取ると、自分の指を咥え唾液で濡らし、政宗の後孔をその指でほぐす。
 鍋の湯は沸騰し続け半分以下に減り、枝豆は尚もぐつぐつと茹でられている。
「えだまめが……んんっ……」
後ろをまさぐられながらも鍋に手を伸ばそうとした政宗だったが、幸村はその手を押さえそれを阻止する。そのまま政宗の手を台につかせ、腰を引いて突き出させると、幸村も下帯を外し幸村自身をじわじわと政宗の後孔に挿入していく。
「ちょ、待っ……!ぁあ……えだま…めが……!」
奥まで貫くと、政宗の膝ががくがくと震えた。腰を掴んで体を支えてやりながら、ゆっくりと抜き差しを繰り返し、政宗の首筋に唇を這わせる。
 その間にも鍋の湯は蒸発し続ける。
「くぅ……え、えだまめ……あぁっ……」
「政宗殿……枝豆より、某を呼んでくだされ」
「ゆ、き……むらぁ……!えだっ、えだまめがっ……焦げ……んぁあ!」
自分の名より多く連呼される枝豆に嫉妬した幸村は、自身を激しく突き立てた。
 昨日あまりの美味さに感動すら覚えたずんだ餅の事はもうどうでも良くなっていた。
 やがて果てた幸村は、政宗の中を自分の精で満たした事で枝豆に勝った気がした。





 心地良い疲労に包まれながら、幸村は自身に懐紙をあてがいゆっくりと引き抜いた。と同時に焦げ臭い匂いが鼻をつく。
「あーーーーーーーー!」
鍋の中は湯が全て蒸発し枝豆が焦げていた。
「全部焦げちまってんじゃねェか!アンタのせいだぜ!せめて出来上がるまで待てなかったのかよ!」
「政宗殿が首筋を見せつけて某を誘惑するからでござる!たすきを掛け髪を結っただけで匂い立つような色香を発するとは侮れぬ……!」
「訳わかんねェ事言ってんじゃねェ!それよりどうすんだこれ。もう食えねェぞ」
「枝豆の分際で政宗殿の心を独り占めしようとした罰でござる。たかが豆ごときに遅れを取る幸村ではござらぬ」
そう言って勝ち誇った顔をする幸村に政宗は呆れ果て、大きく溜息をついた。
「枝豆に罪はねェだろうが」
「枝豆の肩を持たれるか!政宗殿は枝豆と某のどちらが大事なのだ!」
「枝豆」
「なっ」
「食い物を粗末にする奴は好きじゃねェ」

 政宗の言葉に打撃を受け言葉を失くし立ち竦む幸村を尻目に、枝豆に内心詫びながら焦げた鍋の後始末をする政宗だった。



2010.06.14

【後書】
えっと、エロシーンで笑っていただけたら本望です(笑)。
たすき萌えでござる!






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