事の発端は何だったのか――。
 はじめは互いの近況など取り留めのない話をしていた筈だった。酒を酌み交わしながら。
 途中から、何がどう転んだのか色事の話になった。普段、事あるごとに破廉恥破廉恥と喚き立てる幸村を、政宗は揶揄したのだった。 ガキだの幼いだの青臭いだの、好きな奴ができたってどうせ何もできやしないだの、 手を繋いだだけで爆発しそうだの、戦場に裸の女でもいれば即座に討ち死にするだの、槍使いのくせに三本目の槍は使い途がないだのと。 普段そのような下卑た言葉を口走る政宗ではない。が、この日は酒が多分に入っていた事もあり、饒舌になった政宗の暴言はとどまるところを知らなかった。 笑って聞き流せれば良かったのだが、幸村も既にしこたま飲んでいる。聞いているうちに段々と腹が立ってきた。 アンタそれでも男かよ情けねェ――そう言われた瞬間、幸村の中で何かが切れる音がした。
「そこまで申されるのならば、自身で確かめてみれば良うござろう。この幸村が、男か否か」
 酒精により正常な判断力を失っていたのだろう、とは後になって思う。しかしこの時は、政宗に自分を認めさせる事しか念頭になかった。

 政宗ににじり寄り、その手首を強く掴んだ。政宗は一瞬驚いたが、しかしすぐに口角を上げた。
「Ha, アンタに何が出来るってんだ」
 構わず引き寄せる。もう片方の手を政宗の後頭部に添え、その煩い口を口で塞いだ。政宗はまだ何か言おうとしたが、幸村はそれを口づけで飲み込んだ。 政宗は頭を振って逃れようとする。が、幸村はそれを許さなかった。頭を掴み、無理やり舌をこじ入れる。 苦しげな吐息が漏れるも、容赦なく政宗の舌を絡め取り、引き出し、音を立てて吸った。 そうして一頻り口内を犯し、漸く口を離すと、唾液が糸を引いた。呼吸の乱れた政宗が間近で睨みつけてくる。
「Damn you, 調子に乗りやがって」
「某を焚きつけたのは貴殿の方にござる。その責は負っていただかねば」
 抱き寄せて、体を密着させる。政宗は幸村の肩を押し逃れようとするが、力づくで抱きすくめ、頬や首筋に次々と唇を落とし舌を這わせる。 やがて、押し返すだけでは離れられないと悟ったのか、政宗は幸村の腹を蹴ってきた。しかしそれで怯む幸村ではない。 逆にその力を利用し、膝を抱えて引くと同時に乱暴に押し倒した。政宗はすぐさま殴りかかってきたが、幸村はその手を捕らえ、畳に押しつける。
 上から見下ろすと、政宗の喉が上下したのがわかった。
「Don't go mad. わかった、もうわかったから、真田幸村、アンタが立派な男だって事ァよーくわかった。だからそろそろこの辺で、な」
 身の危険を感じたのか、幸村の気迫に気圧されたのか、政宗は珍しく狼狽えた顔を見せた。 今ならまだ冗談で済ませられるのかもしれない。が、幸村は引くに引けぬところまで来ている。
「否、政宗殿は何もわかっておられぬ。某が如何に貴殿を求めておるのか、如何程に貴殿を欲しておるのか……全くわかっておられぬ。 貴殿以外の者など誰一人として要らぬというのに」
 自分でそう言ってみてはじめて気づいた。何が幸村の逆鱗に触れたのかを。幸村の想いに気づこうともしない事にこそ、苛立ったのだ。
 政宗は幸村をまったくの初心だと思っているようだが、幸村とて国の内外を問わず名の通った武将である。 これまでにそういった機会がなかった訳ではない。しかし幸村がそうしたいと思える相手は、この戦乱の世においてたった一人――。
「真田幸村……」
 政宗の体から力が抜けた。抵抗を諦めたのか、受け入れる覚悟を決めたのかはわからない。 幸村は毟り取るように政宗の着物を剥ぎ、自分も着ているものを全て脱ぎ捨てた。 政宗はもう何も言わず、じっと幸村を見ている。心なしかその瞳は潤んでいる。 それに吸い寄せられるように、再び口づけた。今度は吸い返してくる。 舌を絡ませながら、手を下方へ這わせた。半ば勃ち上がっていた政宗のものに触れれば、一瞬その体が小さく跳ね、引き締まった腹筋が波打った。 柔らかく握り込んだ手を上下させるとすぐに硬くなった。 顔を離して見れば、政宗は幸村を睨んではくるものの、その眦には朱が差し、唇を噛み締めている。 時折解ける唇からは切なげな吐息が漏れ出した。
 眩暈がしそうだった。鍛えられた筋肉で引き締まったしなやかな肢体は一切の無駄がない。 しっとり汗ばんだ艶やかな肌。悩ましげに眉根を寄せ、欲に色づいた隻眼。 もっと見たい。自分が与える刺激によって政宗が乱れるさまを。
 俄かに急き立てられた幸村は、政宗を扱く手の動きを速めた。張り詰めたそれの先端から零れ出る先走りを親指で鈴口に塗りつけながら上下に扱く。
「くっ……うぅ……」
 止め処なく溢れる先走りはやがて掌全体に広がり、ぬるついた感触が更なる快感をもたらすのか、政宗は背をしならせ、腰をくねらせる。 その煽情的な姿態に見惚れているうち、やがて政宗の体が跳ねるとともに精が吐き出された。
 政宗は胸を大きく上下させ、荒い呼吸を整えようとしている。しかし幸村はそんな猶予を与えるつもりはない。 まだ断続的に小さな痙攣を繰り返す政宗の足を開かせ、掌に吐き出された精液を政宗の後ろに塗りつけた。 政宗はまだ呼吸が整わぬまま抗議の視線を投げつけてくるが、幸村は構わず指を埋めていく。
「う……」
 達してすぐ間を置かず与えられる刺激に政宗の顔が歪む。政宗の呼吸に伴って内部が収縮するのが指から伝わってくる。 中を押し広げるように指を動かせば、己の精に潤み蠕動する襞が幸村を誘う。たまらず指を引き抜くと、自身の濡れた切先を宛がった。 瞬間、政宗が息を飲んだのがわかった。しかし、抗う素振りは見せない。 されるがままになっているのは、無駄だと悟っているのか、或いはそれを望んでいるのか。
 先端を馴染ませるように擦りつけ、そして中の具合を確かめながらゆっくりと腰を進めていった。 半ばで一旦動きを止めて様子を窺う。政宗は唇を噛んで幸村の挿入に耐えているようだった。その切なげな表情が幸村を更に昂らせる。 再び腰を進め始めると、政宗は縋りつくように幸村の肩を掴む。根元まで政宗の内に収めた時、肩に政宗の指が食い込んだ。 止めていた息が、微かな呻き声とともに吐き出される。 きつい内部を慣れさせようと暫くそのままじっとしていれば、薄目を開けた政宗と目が合った。 組み伏せられ貫かれているにも拘らず、その隻眼は、潤んではいるものの不思議と鋭さを失っていない。そして政宗は片方の口角を上げて見せる。
 その笑みに後押しされ、幸村は動き始めた。浅い抜き差しを繰り返しているうちに快感が増していく。 繋がった箇所はきつく幸村を締めつけ、しかし奥は柔らかく絡みついてくる。 幸村の全身を快感が駆け巡り、たまらず政宗の足を抱え、深く突き立てた。
「はっ、……ん、あぁ……」
 噛み締められていた唇が解け、吐息とともに漏れ出した抑え切れない声に、幸村はわずかに目を瞠った。
 普段の低い声からは想像もできない、鼻にかかった声。耳が蕩けるようだった。その甘美な声をもっと聴きたくて、激しく腰を打ちつけた。
 政宗の腕が幸村の首に絡みついてくる。引き寄せられ、唇を合わせた。 律動で唾液に滑る唇と唇の隙間から、幸村の動きに合わせて熱い吐息と甘い声が零れる。もう限界だった。 一際強く押し込み、最も深いところで幸村は熱を吐き出した。その脈動に合わせて政宗の体が小刻みに震える。 首にしがみついていた腕は解けて落ちていった。
 戦った後のように肩を大きく上下させながら政宗を見れば、政宗は呼吸の荒い幸村に値踏みするような視線を投げかけてくる。 吐精の心地よい余韻は瞬く間に吹き飛んだ。政宗を組み敷いてその体を暴き、支配したのは此方の筈だ。 しかし何故か、己の方が支配されている気がする。 焦燥に駆られた幸村は、まだ怒張したままのそれを政宗の身の内に収めたまま、政宗の片脚を持ち上げ、その体を反転させた。
 腰を抱えるように支えて促せば、やはり政宗はされるがままに四つん這いの姿勢をとった。 油皿の灯りに照らされた背中は汗に濡れ、輝いているようにも見えた。肩胛骨の間に濃い影を落としている。 そっと掌で触れてみれば、湿った肌が吸いついてくる。その背の彼方此方に唇を落とし、舌を這わせた。
 政宗の腰骨辺りを掴み、再びゆっくりと腰を動かし始める。先刻より体勢は楽だった。きっと政宗もそうなのだろう。 一度達した後でもあり、愉しむ余裕が出来た、そう思ったのは最初だけだった。
 体の向きが変わった事により、政宗を抉る角度が反転し、先刻とは少し異なった快感がもたらされる。最も強く擦られる場所も反転したのだ。 そして、いちばん深く入った時に先端に当たる箇所もまた、違っている。 同じところに挿れているのに、不思議なものだ――政宗の体がそうなのか、それとも皆そうなっているのか、幸村にはわからない。 が、政宗の体が知れればそれで良い。
 背後から見ても、やはりその体はしなやかで、見惚れてしまう程に美しい。それが今は、今この時だけは、幸村のものなのだ。 幸村はぞくりと背を震わせ、生唾を飲み込んだ。
 幸村の緩慢な動きに焦れたのか、政宗も腰を動かし始める。快楽を追い自ら腰を揺するその様はひどく淫らで、幸村の欲を駆り立てる。
 その腰の下にそっと手を回せば、一度は萎えかけていたそれは再び勃ち上がっていた。先端から溢れる先走りが糸を引いて垂れている。 握り込み、腰の動きに合わせて扱けば、政宗の背が大きく仰け反り、畳について体を支えていた腕ががくがくと震えた。
「んっ、あ……あぁっ」
 再び声が聞こえ始め、それを契機に幸村は腰の動きを速めた。政宗の腕はとうとう体を支える力を失い、前方に投げ出される。 俯せで尻だけ高く掲げた格好となり、途端に中がきつくなる。穿つ角度が変わり、先端が内壁に強く擦られる。 一瞬息が詰まったが、幸村は政宗を擦りながら抉るように腰を打ちつけた。
 激しく収縮する内部は幸村を締めつけ、絶頂へ導いていく。 強すぎる快感に限界を感じたその時、政宗はその身を大きく震わせると同時に、一際大きな嬌声とともに果てた。
 射精による大きな脈動に搾り取られるように幸村も再び精を放った。

「気が済んだのか」
 気怠そうに身を起こし幸村に向き直って座った政宗に非難するような目を向けられ、幸村は口篭もる。 政宗に揶揄された三本目の槍で政宗を刺し貫いた事により溜飲が下がりはしたものの、まだ満足するには至っていない。 もっと、もっと竜の体を貪り、味わい尽くしたい。気高く誇り高き竜が快楽に耽溺し乱れる様を見たい。 しかし落ち着きを取り戻した今は、政宗の体の心配が先立った。痛んではいないだろうか。窺うように政宗を見ると、
「あーあ」
 返事をしない幸村に、政宗はこれ見よがしに大きく溜息を吐く。
「三本目の槍はたった二発でもう打ち止めかい。コッチの槍捌きは昼間と違って随分控え目だなァ?虎の若子が聞いて呆れるぜ」
 途端に気分を害した幸村だったが、艶めかしく笑ってちろりと舌を見せる政宗の真意を察すると同時に、跳びつくように再び政宗を押し倒した。





2019.10.18

【後書】
久々にゲームしようと2やってましたら幸村が「我が槍、竜を貫いてみせようぞ!」とか威勢よく言うもんですから。
あー当時もこのセリフに萌え転がったなーと懐かしく思い、存分に貫くがよいその三本目の槍で!という心境で書きました(笑)
筆頭もアレだよね、ちゃんと自分だけをこそ求めてるならレッツパーリィなのよやっぱ。




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