客人を送り出したばかりのその部屋で、伊達政宗は大きく溜息を吐いた。
 今回も駄目だった。何の進展もないままだった。 一体いつになれば先へ進めるのだろう。
 ふと窓の外を見遣れば、庭の梅の枝先に蕾が膨らみ始めている。間近に来ている春の到来を知らせる花芽に目を細め、そして思う。 早く自分にも春が来れば良いのに、と。


 武田との同盟が成るのと時をほぼ同じくして、政宗は予てより想いを寄せていた真田幸村と恋仲になった。 しかしそれからもう幾月も経つというのに、幸村との仲は一切進展していない。
 会う機会がなかった訳ではない。恋仲となって以来、幸村は暇を見つけては足繁く奥州へ通ってくる。 しかし、部屋にで二人きりになろうと談笑するのみである。睦言めいた言葉を口にする事はあれど、政宗に触れてこようとすらしない。 これではただの知己朋友と差異はない、そう思って政宗はふとある考えに思い至った。
 もしや幸村は自分と肉体的な関係を持つことを望んでいないのではないか。 だが、それでは武田道場で幸村が言った政宗が欲しいという言葉と矛盾する。それともあれは精神的な意味でのことだったのだろうか。
 政宗は、幸村と抱き合ったり唇を重ねたり、そしてその先の事ももちろんしたいと常々思っている。 ならば自分からすれば良いところなのだが、そうするには政宗の性格が枷となる。 幸村からしてほしいのである。
 自分からするのは簡単だ。抱きついて、口づけて、押し倒せば良い。だが政宗が望むのは違う。 幸村から、そうされたい。求められたい。しかし、もし幸村がそれを望んでいないとなれば、いくら待ってもそんな状況は訪れない。 政宗は顔を歪めた。


 それから月をおかずして、また幸村が伊達屋敷を訪れた。
 いつものように政宗の部屋で手土産の団子を二人で食べ、茶を啜りながら互いの近況を話す。いつもの流れである。
 付き合うようになってからわかったことだが、幸村は意外に饒舌で、二人でいるときは殆ど幸村が喋っている。
 やれ信玄がどうの忍がどうのと、政宗にとってはどうでもいいような内容ではあるが、普段の幸村の様子を知れるのは嬉しかった。
「さて政宗殿」
 一通り話し終えた幸村は、槍に手をかけまたいつものように手合わせを持ち掛けてきた。しかし政宗は気乗りしない。 もっと他にやりてェことがあるんだよ、と内心で嘆息するも、幸村は散歩を待つ犬のように目を輝かせ政宗を見ている。
「今日は、なしだ」
 幸村の目と口が大きく開く。
「そっ……、政宗殿、何ゆえ」
「気が乗らねェ」
「貴殿との手合わせは此方へ参る楽しみのひとつでござる。然様なことを仰らず、政宗殿、いざ」
「嫌だっつってんだろ!」
 懇願するような幸村の眼差しに一瞬心が揺らぎかけたが、政宗の胸中に気づこうともしない幸村に苛立った。
「では理由をお教えくだされ。でなければ納得がいき申さぬ」
「アンタが気に入らねェからだ」
 幸村は目を丸くし、二、三度瞬いた。全く心当たりがなさそうだ。 自分はこんなにも悩んでいるというのに、暢気なもんだ――八つ当たりだとわかってはいるものの、苛立ちが収まらない。
「某になにか非礼があればお詫び致すゆえ、ご指摘くだされ。某は」
「別になんもねェよ、ただ気に入らねェ、それだけだ」
「それではわかり申さぬ。理由もわからぬ某に如何せよと」
 してほしいことはただ一つ。しかしそれを素直に口に出せる政宗ではない。口篭もる政宗に幸村は大きな溜息を吐いた。
「政宗殿は厄介にござるな。至極厄介にござる」
 思わぬ幸村の言い草に政宗は目を剥いた。
「Bullshit, 厄介なのはアンタの方だろうが!毎回毎回先触れも寄越さねェでいきなり来やがるし!ちょっとしたことですぐ馬鹿でかい声で叫びやがるし! 人の話は聞かねェ、間違いを指摘しても認めようとしねェし!こんだけ一緒にいても俺に手も出しやがらねェし! 俺はいつもアンタと触れ合いたいと思ってんのにちっとも気づきやしねェ!そんで俺の部屋散らかしても片付けねェし、それに……」
 幸村の言葉が癪に障り言い返しているうちに、再び目を丸くした幸村に気づき、政宗は捲し立てるのを止めた。
「政宗殿。今なんと……なんと申された」
「散らかして片付けねェ」
「その前にござる」
 ばつが悪くなった政宗は顔を逸らした。不満を並べ立てているうちについ本心を曝け出してしまった。 これで幸村が何もしてこないようなら、自分から襲いかかるしかもう選択肢は残されていない。じっと幸村の次の言葉を待った。
「貴殿に、触れても……良いのでござろうか」
 幸村らしからぬ小さな声に顔を向けると、幸村は捨てられた仔犬のような心細げな表情で政宗を見ていた。
「アンタも、そう望むなら」
 幸村は両手でそっと政宗の左手を取った。親指で手の甲の筋をなぞる。温かい手だった。その手の温もりに、心まで温まっていくような気がした。 先程までの苛立ちがみるみるうちに溶かされていく。
「これが、貴殿の不機嫌の原因でござったか」
 政宗は答えなかった。それを肯定と受け取ったのか、幸村は柔らかな微笑みを向ける。
「某とて、ずっと貴殿に触れたいと思っており申した。なれど頃合いが掴めず、それに……怖かったのでござる」
「怖い?アンタが?」
 政宗は怪訝な顔をした。かの第六天魔王と初めて対峙した時でさえ、怯むどころか己の調子を全く崩さなかった幸村である。 色事における経験がないとはいえ、それに怖気づくような男だとは思えなかった。
「如何にして進めていけば良いものか、わからぬのでござる。他のことならば一人で鍛錬も出来ようが、こればかりはそうは参らぬ。 おかしな真似をして貴殿に厭われでもすれば、と思うと……貴殿を失う事は某にとって何よりも耐え難く」
 政宗は僅かに目を瞠った。
「惚れた相手に触れられて嫌がる筈ねェだろうが」
 呆れたように言ってみせたものの、内心はそこまで想ってくれていた事に対する嬉しさに満ち溢れていた。
「では、御免」
 握っていた手を不意に強く引かれたのに驚いた次の瞬間には、政宗の体は幸村の腕に包まれていた。 俄かに鼓動が速くなり、体中の血が沸騰したように体が熱くなる。おそるおそる幸村の背に手を回せば、政宗を抱く腕の力が強くなった。
「お嫌ではござらぬか」
「It's ridiculous. 嫌どころか、ずっとこうしていたいと思ってるくらいだぜ」
 更に強く抱き締められる。一瞬息が詰まったが、その窮屈さが心地よい。 頭の芯が麻痺していくようだった。
「政宗殿」
「真田幸村」
 名を呼ばれるたび、呼び返す。それを幾度も繰り返した。 幸村の声で紡がれる己の名は、何故こんなにも恍惚と耳に響くのか。
 幸村は腕を緩め、政宗の顔を正面から覗き込んだ。頬が紅潮している。きっと自分の顔も同じ色をしているだろう。
「前々から思っておったのでござるが」
「なんだ」
「幸村と、呼んでくださらぬか。せめて二人きりの時だけでも」
 意図せず笑みが漏れた。無頓着なようでいて気にしているのが微笑ましかった。
「……幸村」
 慣れた呼び方を変えるのは意外に恥ずかしい。が、呼ばれた瞬間満面の笑みを浮かべた幸村につられ政宗も嬉しくなる。
「今一度、呼んでくだされ」
「幸村」
 そうしてまた名を呼び合った。数度繰り返したところで、幸村は不意に真剣な眼差しで政宗を見据えた。
「No worries, アンタがしたいことと俺がしたいことは同じだ」
 意図を察した政宗はそう幸村を促し、そっと目を閉じた。一拍の間をおいて、唇に幸村のそれが押し当てられる。柔らかくて、熱い。 触れているだけの口づけに焦れた政宗が幸村の唇を吸うと、幸村も同じように吸い返してくる。 もっと密着しようと、抱き合う腕がきつくなる。そっと舌を差し出してみると、強く吸われ、眩暈がした。
 短い息継ぎを挟みながら、抱き合ったまま互いに舌を絡め唇を貪った。 唾液の混ざり合う微かな水音が耳朶をくすぐり、更なる熱を欲しがる体が火照ってくる。 やはり自分を熱くさせられるのは幸村をおいて他にないと、改めて思い知らされる。
「貴殿が……欲しゅうござる。政宗殿」
 唇が離れ、熱の籠った眼差しが政宗を射抜く。
「さっき言ったろ。俺も同じだと」
「良うござった……!」
 幸村は心底安堵したように大きく息を吐いた。
「どうした?」
「先般某が同じ事を申した際には、にべもなく突っぱねられた故」
「そういやそうだったな」
 政宗の冷たい拒絶の言葉を幸村が曲解したからこそ今がある。 幸村の前向きすぎる思考に呆れ果てた事を思い出し、政宗は鼻の頭を幸村の鼻に摺り寄せて笑った。
二人でくすくすと笑いながら、ふと気づく。幸村はただ鈍い訳ではない。 真っ直ぐなのである。政宗に対して。 だからこそ武田道場で政宗だけは識別でき、政宗の言葉の意味も取り違え、政宗に迂闊に手を出して厭われる事を怖れた。
 胸の奥から熱い感情が込み上げる。
「お慕いしており申す、政宗殿」
「幸村……」
 出会うまで、知らなかった。こんな感情があることを。自分がこんなにも誰かに夢中になるなんて思ってもみなかった。 愛しくて、愛しすぎて、なんだか泣きたくなる。
 そして僅かに戸惑いを覚える。これまで政宗は己の生を実感できるのは戦においてのみだった。 戦いだけが政宗を満たす事の出来る全てだった。 だが今、満たされている。心が喜びに満ち溢れている。腑抜けになったような気分だった。今だけはそれでも構わないと思った。

 互いに着ているものを全て脱ぎ捨てた。幸村は政宗の頭を支えながらそっと横たえる。熱を孕んだ眼差しが政宗を捕らえている。 なにやら恥ずかしかった。裸の姿を見られることに抵抗がある訳ではない。が、幸村の眼差しに心まで裸にされるような気がした。
 顔が近づき、唇を合わせる。奪い合うように舌を絡ませれば、自ずと呼吸が荒くなる。 それは幸村も同じで、熱く湿った吐息を感じるたびに体の芯が蕩けていくようだった。
 口が離れるとすかさずその唇は政宗の頬や首へと降り注いだ。 時折首筋を舐め上げられ、ぞくぞくと背をしならせながら、うるさいくらいに高鳴り響く鼓動を感じていた。
 脇腹を撫でていた幸村の手が胸に伸び、その中心を親指の腹で擦る。
「んっ」
 意図せず声が漏れ、咄嗟に右手で口を覆った。幸村は手を止め心配げに顔を覗き込んでくる。
「……気にしねェでいい、思うようにやれ。アンタのこと全部受け入れてやるから」
「政宗殿……」
 幸村は意を決したように頷くと、政宗に軽く口づけてから頭を胸へと移動させた。
中心をくすぐるように舌を這わせながら、そっと手を下へ伸ばし、指先で下生えをまさぐった。 既に固くなりつつあった政宗自身に手の甲が触れ、そのまま撫で上げられると、たちまち張り詰めたそれがもたらす感覚に政宗は反射的に腰が引けた。
「……っ!」
 再び手で口を押え、かろうじて声が漏れるのを堪えた。幸村はそれを握り直し、上下に扱く。
「幸村……」
 名を呼べば、口づけが返ってきた。政宗は幸村の肩を引き寄せ、もう片方の手で確かめるように幸村自身に触れてみれば、一瞬、幸村の体が強張った。 政宗同様、幸村も固く屹立している。政宗も幸村と同じようにそれを優しく扱いた。
 抱き合ったまま、時折口づけながら互いに愛撫を続けていると、ふとした拍子に互いのものの先端同士が触れた。 既にどちらのものも先走りに濡れており、亀頭にぬるぬるとした刺激が加わり更なる快感が全身を駆け巡る。 幸村も同じのようで、呼吸が一際荒くなった。政宗を扱く力が強くなる。
「はっ、ああ……っ」
 互いに握り合ったまま、先を擦り合わせながら愛撫を続けた。先走りが混じり合い、擦れるたびに淫靡な水音を立てる。
 もう達してしまいそうだ、政宗がそう感じた時、
「ま、政宗……殿……っ」
 幸村が達する瞬間、強く絞り上げるように幸村の手が動き、たまらず政宗も射精した。ほぼ同時だった。
 肩で息をしながら幸村を見れば、はにかんだように微笑を返す幸村もまた息が乱れていた。
 汚れていない方の手が政宗の頬に伸び、顔にかかった髪を梳くようにかき上げると、まだ呼吸の整わぬまま口づけてくる。 少し苦しかったが、拒まず応えた。
「政宗殿」
 漸く呼吸が整うと、幸村は窺うように政宗を見た。政宗が見つめ返すと、口ごもり目を逸らし、そして再び政宗と目を合わせた。
「先刻、貴殿は全て受け入れてやると申されたが……」
「Sure」
「それは、その……、肉体的な意味に解釈して良いのでござろうか」
 遠慮がちに問う幸村に、ふと悪戯心が沸き起こる。
「俺に突っ込みてェのかい」
「つっつつ、つ、つつ突っ込むというか、あの」
 俄かに顔を真っ赤にして慌てふためくその反応は予想以上で、思わず政宗は声を出して笑った。
「さっき言ったとおり、全部受け入れてやるよ。それに俺はこうも言った筈だぜ、アンタがしたいことと俺がしたいことは同じだと」
「政宗殿……」
 幸村の腕が政宗を抱き寄せる。政宗も幸村の背に腕を回した。
「貴殿のことが愛しすぎて、頭がおかしくなりそうでござる」
「アンタは元々ちょっとイカレてるだろう」
 そう軽口を叩きながら、政宗は自分も言えた義理ではないと感じていた。一国の主である自分が他国の武将とこんな関係になること自体、正気の沙汰ではない。 わかってはいるが、ここまで惚れてしまったものはどうしようもない。
 政宗は仰向けになり、幸村の顔を引き寄せ口づけた。唇を吸い合い舌を絡めれば、再び体の芯に火が宿る。 そして政宗は幸村の手を取り、人差し指と中指を口に含んだ。どちらのものかわからない精液の味がした。 節ばった指の感触を味わいながら、舌を這わせ唾液を絡ませた。
「これで解してくれ。アンタのが入るくらいまで」
 たっぷりと絡ませた唾液が糸を引くのを見ながら、幸村が固唾を飲んだのがわかった。余裕のない、切羽詰まった表情をしている。 戦っているときと似ているようで、違う。その瞳の奥には欲に色づいた炎が宿っているのが見てとれる。
 上等だ、と政宗は声に出さずに呟いた。
 幸村は政宗に軽く口づけてから、政宗の足の間へ割って入り、そっと手を政宗の股間へと伸ばした。 膝を立て足を広げれば、政宗の唾液に濡れる指でそっと政宗の後孔に触れる。 その瞬間政宗の体に緊張が走ったのを知ってか知らずか、幸村は唾液を孔の周囲に塗りつけるように指を動かしたあと、力を入れて押し込めた。
「う……っ」
 体が強張る。気持ちが悪い。外からの異物を受け入れるのは初めてなのだから致し方ない。呼吸を止め、じっと耐えた。
「大丈夫でござるか」
 その言葉で固く瞑っていた左目を開ければ、幸村が心配げに覗き込んでいた。止めていた息を吐き出し、頷いてみせる。声が出なかった。
 幸村は宥めるように政宗の太腿を撫でながら、ゆっくりと指を奥へと進ませる。 根元まで挿入すると、一旦ぎりぎりまで引き抜き、再び根元まで差し入れる。 暫くその動作が繰り返され、政宗はされるがままじっと耐えた。 そして幸村の指が中を拡げるように角度を変えつつ動き始めた、その時だった。
「あ……!」
 突然、痺れるような快感が政宗を襲った。思わず声が漏れる。幸村の指が、内部のある箇所を刺激するたびに鋭い快感が全身を駆け巡る。
 たまらず政宗は足を閉じようとした。が、幸村はもう片方の手と足を使って政宗の足を押さえそれを阻む。戸惑ったが、毒づく余裕などない。 中の指の動きが速さを増すのに比例して更に快感が強まっていく。
「くっ、う……」
 声を抑えることに意識を集中させ、必死に耐えてどうにか遣り過ごそうと努めた。
いつの間にか二本に増やされていた指が引き抜かれ、漸く解放されたことに安堵したのも 束の間、息をつく暇もなく幸村は政宗の両膝を抱え上げる。
「待っ……」
「なんと悩ましく艶めいた顔をなさるのでござろうか……某もう我慢の限界にて、早う貴殿と繋がりとうござる」
 顔を見られていたことに羞恥を覚えたのは一瞬で、幸村自身の切先を後孔に押しつけられ息を飲んだ。
 幸村は先端を馴染ませるように擦りつけてから、力を込めて押し入れようとした。が、なかなか上手くいかない。
「力を抜いてくだされ、政宗殿」
 優しく脇腹を撫でられ、深く息を吸い、吐いた。二、三度それを繰り返し、少し落ち着きを取り戻した。
 力みが緩んだ途端、幸村は先端を捻じ込ませた。 指とは比べものにならない圧倒的な太さに再び息が詰まったが、すぐに吐き出し、強張る下半身の力を抜くよう努めれば、幸村は少しずつ、しかし確実に腰を進めてくる。 少し進んでは戻し、また進んではまた戻す。政宗の内側は幸村のそれを押し戻そうとしているのがわかる。 挿入を阻む意志はないが、ひとりでにそうなってしまう。 幸村は中の感触を確かめるようにゆっくりと時間をかけて浅い抜き差しを繰り返す。体が引き裂かれるようだった。想像していた以上の苦痛に身悶える。 が、耐えられぬ程ではない。 半分以上入ったところで幸村は根元まで一気に押し込んだ。
「くぅ……っ」
 そうして漸く全てを身の内に収めたとき、胸の奥になんともいえない感情が沸き起こった。 勿論体は苦しい。しかし、幸村とひとつになれたことの悦びの方が遥かに大きい。
 幸村は政宗の奥深くまで自身を埋めたまま身を屈め、唇を合わせてくる。 幸村の首に腕を回しそれに応えながら、政宗は心底惚れた相手と体で繋がることの幸せを噛み締めていた。
「……What's wrong?」
 唇が離れ幸村を見れば、今にも泣き出しそうな表情をしている。
「政宗殿。愛してやまぬ相手と交わるのは、斯くも幸せなことなのでござるな……」
 政宗は目を瞠った。幸村の顔を引き寄せ、その耳元で俺も同じ気持ちだと囁いた。にやけた顔を見られたくなかった。
 奥で動きを止めたまま抱き合っていれば、硬く猛った幸村自身が逸り立つように脈打つのを感じる。 覚悟を決め、動いていいぜと促せば、政宗を抱き締めたまま幸村は徐に腰を揺すり始める。首元に感じる呼気は熱く荒い。 身の内に太い楔を打ち込まれる苦しさに喘ぎながらも、それによって幸村が感じているならそれで良いと思った。
 思うように快楽を追いたくなったのか、幸村は政宗に覆い被さっていた上半身を起こし、膝を抱えた。結合がより深くなる。 電流のような感覚が背筋を駆け抜け、思わず背をしならせた。 抉る角度が変わったことにより、幸村が動くたびに、先ほど幸村の指で思わぬ快感がもたらされたあの箇所が擦られる。 たまらず幸村の肩にしがみついた。
「んっ、あっ……はぁぁっ」
 苦痛を堪える押し殺した声が快感による喘ぎに変わったことに、幸村も気づいたに違いない。 先刻までの遠慮がちな動きから一転、激しく腰を打ちつけてくる。限界まで引き抜き、そして奥まで一気に捻じ込ませる。 もはや声を抑える余裕などない。自分のものとは思えないような嬌声がひとりでに口をついて出る。政宗は内心狼狽えた。 どうにか止めようと思うものの、感じすぎてどうにもならない。理性を押し流す快楽に身を委ねるほかなかった。
 幸村の動きが一際速さを増し、いちばん奥まで政宗を貫いたところで、弾けるように大きく脈打った。中に熱いものが迸る。 政宗は一瞬戸惑ったが、幸村が中に精を放ったのだとわかった。腰を押しつける力が緩み、政宗は大きく息を吐いた。 しかし、やっと終わったと安堵したのは一瞬で、幸村は自身を抜こうとはせず、政宗の中心に手を伸ばした。
「あ、あっ……!」
 再び幸村の肩にしがみつく。既に極限まで張り詰めていたそれは、少し扱かれただけで熱を吐露した。



 裸で抱き合ったまま、幸村は政宗を離そうとしない。愛おしそうに見つめてくる幸村を見つめ返せば、この上なく幸せそうな笑みが返る。 きっと自分も同じような顔をしているんだろう、と政宗は思った。
 世界が違って見える。この左目に映るもの全てが、幸せで彩られている気がする。 この幸せを、いずれ自らの手で断ち切らなければならなくなる。だが今はそれを考えないことにした。




2019.09.25

【後書】
これのひとつ前の話は最初から最後までギャグのつもりで書いたんですが、 ちょっと筆頭が気の毒だったので本懐を遂げさせたかったというのがこれを書いた動機です(笑)
なので筆頭が前回の思考を引きずってますυ




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