この夏は殊更に暑かった。
 日の本の北方に位置する奥州は他国に比べ多少はましとはいえ、盆を過ぎても一向に猛暑は和らぐ事を知らず、おまけに雨も降らない。 旱魃による野菜の不作を憂う小十郎は畑に懸かりきりである。
 政宗はというと、先程まで独り刀の稽古に精を出していたのだが、あまりの暑さに刀を置き、縁側に腰掛け、扇子を握った右手を忙しなく動かしていた。
「こうも暑くちゃ、何もする気になれねェな……」
 膝から下を縁側の縁からぶら下げたまま、ごろりと横になった。額に扇子を翳し空を見上げる。高い太陽から容赦なく陽射しが降り注がれている。
――――どうしていやがる、真田幸村。
 その攻撃的な眩しさはいやでも好敵手たる紅蓮の武将を想起させる。この猛暑の中を主君と共に燃え滾り、甲斐はさぞ暑苦しい有様になっている事だろう。 想像しただけで暑さが増した気がして、笑った。
 暫くの間、組んだ手を枕に、高い空を旋回しながら舞う鳶を幾分羨望を含んだ眼差しで見ていた。

 どのくらいそうしていただろうか、遠くから己の名を呼ぶ声が聞こえた。今し方脳裏に思い描いていた好敵手の声である。その声はだんだん近づいてくる。
「やれやれ、このクソ暑い時に暑苦しい野郎が来やがった」
 そう独り呟くその言い草とは裏腹に、政宗の口許は緩んでいた。
「政宗殿!おお、此方でござったか!」
 屋敷の角から姿を現し政宗の姿を認めた幸村は、満面の笑みを浮かべ小走りで駆け寄ってくる。
「アンタ、来やがったのか。どおりで今日は一段と暑いワケだぜ」
 上体を起こして濡縁に座り直し、小躍りする心を悟られぬようわざとらしく肩を竦めて見せた。
 こうした先触れのない突然の来訪は別段珍しい事ではない。 真夏のこの時期に単身で遠国まで赴くのは命懸けである筈が、この幸村という男は事も無げにいそいそとやって来る。
「政宗殿、お会いしとうござったぁぁ!」
 そう叫びながら政宗に飛びつき、その勢いに押され政宗は再び濡縁の板に背をつく格好となった。
「Gimme a break!暑っ苦しいんだよアンタは!」
 幸村の体温はきっと常人よりも高いのだろう。密着した部分が熱く感じ、途端に汗が滲んでくる。
 はじめは引き剥がそうとした政宗だったが、さも嬉しげな幸村の顔を見るにつけ、少しくらいは我慢してやっても良いかと思う。
 幸村の感情表現は非常に直接的である。心のままに物を言い、欲求のとおりに行動に出る。 政宗に打ち込んでくる燃え盛る槍も、政宗を愛おしげに見つめる熱の篭もった眼差しも、どこまでも真っ直ぐだ。
 軽い眩暈を覚える。きっと暑気中りだろう、と思う。気候によるものばかりではない。幸村の熱に当てられたのだ。
 もう少しそのままでいたかったが、如何せん半屋外のこの場所でいつまでもそうしている訳にはいかない。 政宗は幸村が即座に離れる言葉を口にした。
「Hey, 折角来たんだ、手合わせといこうぜ」
 案の定幸村はすぐさま政宗から手を離し、背中の槍に手をかけた。
「望むところにござる!政宗殿、いざ!」
 我ながら幸村の扱いには慣れたものだ、と苦笑しつつ、一度は置いた刀を再び手にし、開けた場所へ移動し打ち合い始める。 独り稽古ではあまりの暑さに辟易し早々に意欲を失ってしまったが、幸村が相手となると全く違ってくる。 自ずと胸に湧き上がってくる闘志を漲らせ、夢中で刀を振るった。

「政宗様」
 日が傾き始め、互いに疲労を隠し切れず肩で息をしながら睨み合っていたその時、いつの間にか屋敷へ戻ってきていた小十郎の呼び掛ける声に二人は我に返る。
 邪魔をするなと言おうとした政宗より先に小十郎は言葉を続けた。
「西瓜が冷えておりますれば」
 西瓜と聞いた二人の喉が同時に鳴った。途端、喉の渇きを覚える。 結局手合わせを切り上げた二人は、小十郎が丹精込めて育てた西瓜に飛びつき貪り、その美味さに舌鼓を打った。
 幸村の扱いに慣れた政宗以上に小十郎は政宗の扱いには長けているのであった。


 それから夕餉と湯浴みを済ませた二人は早々に政宗の部屋へ引き下がった。
襖を閉めると同時に唇を合わせ、舌を絡ませながら互いに着ているものを脱ぎ捨て縺れ合う。
 敷かれた夜具に身を横たえた政宗に、幸村は幾度も繰り返し口づける。合間に僅かにかかる吐息は、欲を孕んだ熱を帯びている。 幸村の唇はそのまま首筋に移動する。頬と耳を幸村の髪がくすぐり、鎖骨の辺りには湿った吐息と熱い舌が這い、ぞくぞくと鳥肌が立った。 幸村の背に手を回すと、その舌は胸に滑り下りてくる。
「政宗殿」
 吐息まじりに軽く歯を立てられ、その隙から舌先に擦られ、その刺激に体が小さく跳ねると同時に思わず声が漏れた。 瞬間的に顔が火照り、横を向いたが、脇腹を撫でていた幸村の手が政宗の頬に添えられ、上を向かせると幸村は再び唇を吸った。 政宗は幸村の背に回していた手の片方を下方へ伸ばす。硬く猛った幸村自身を擦ると、唇を強く合わせられ、口が開く。 侵入する舌を待ち構えてくすぐると、肩を掴む幸村の手に力が籠り、空いた手が政宗の下生えを探った。ぞくりと背が震える。半ば立ち上がっていたところを柔らかく握り込まれ、軽く揉むように扱かれるとすぐに硬くなった。
「政宗殿……」
 与えられる刺激に、幸村を擦る政宗の手が疎かになる。胸元に熱い吐息が下りてきて、舌が中心を舐め上げる。 政宗自身の先端からは雫が溢れ始め、それを幸村の親指が広げるように塗り付ける。 呼吸が幸村の手に乱され、幸村の髪と肩を掴む指から力が抜けた。
 政宗の拘束が緩んだ途端、幸村が体をずらした。下へ。
 政宗が戸惑った瞬間には、幸村は政宗の先端を咥え込んでいた。政宗の腹筋が緊張で波打った。
 口内は熱い唾液と吐息に満ち、ぬめる舌はその全体で緩慢に先端を舐め上げる動作を繰り返す。 緩い刺激に焦れた政宗が幸村の髪をまさぐる。すると奥深くまで咥えられ、反射的に腰が引けた。もちろん仰向けの政宗には逃げ場はない。それでも幸村は追うように更に深く飲み込もうとする。先端が幸村の喉の奥に当たる。深く咥えられ嚥下するような動作で舌を動かされると、言いようのない快感が襲い、政宗はもう限界に達しようとしていた。
「ゆ、ゆき……むら……、もう……」
 幸村の肩を強く掴むと、指を添えて促すように強く吸い立てられる。 離せ、と幸村の髪を引っ張るものの上手く力が入らず、逃げるように踵が夜具を擦る。遂に限界を迎えた政宗は幸村の口内に吐精した。

 幸村は情熱のままに政宗を求め、こうして身を委ねればその熱さに身も心も溶けそうになる。 まるで太陽のようだ、と思った。 ぎらぎらと容赦なく照りつけ身を焦がす、眩い真夏の太陽は幸村そのものではないか。そう思って政宗は小さく笑った。
「如何された、政宗殿」
 不意に笑みを漏らした政宗が気に懸かったのか、幸村が問う。
「いや、夜になっても沈まねェ太陽もあるんだと思ってな」
 きょとんとする幸村の耳元で何でもねェよと囁き、顔を擦り寄せた。
「政宗殿」
 情交のさなか、幸村は幾度も政宗の名を口にする。政宗はそれが嬉しく、好きだった。 政宗が焦がれてやまぬこの男もまた、同じように政宗を欲してやまぬのだと実感する。
 いつもながら、幸村との情交は抑えのきかない熱が沸き上がる。
 熱い楔に身の内まで灼かれる快感に、政宗の理性は押し流されていく。 如何な局面においても常に理性を失わない事を信条とする政宗ではあるが、相手が幸村の場合に限っては別である。 戦う時も、睦み合う時も、歯止めがきかなくなる。政宗の渇きを癒し、身も心も満たす事の出来る唯一の存在――――。
 肩を掴む手が汗で滑るのを幾度も掴み直し、熱さも厭わず少しでも多く密着しようとする。
「政宗殿」
 己の名とともに漏れる熱い吐息を欲し、幸村の顔を引き寄せた。喰らうように口を合わせる。穿たれる体の律動で、唇は唾液に滑った。
 幸村が汗で滑る足を抱え直すと、一層深く繋がった。奥深くまで貫かれ、ぎりぎりまで引き抜かれ、次第にその動作が速まっていく。
「政、宗……殿っ……!」
 政宗の名とともに、政宗の内は熱い精で満たされた。


 桐月ももう終わりに近づき、まだ厳しい暑さが続いているとはいえ幾分早まった黄昏がそこはかとなく秋の気配を感じさせる。
 じきに夏も終わり、秋は深まり、そして凍える冬がやって来る。それでも、真田幸村という名の太陽は、その灼熱で政宗を焦がし続けるのだろう。




2014.08.19

【後書】
アニメ弐の「この俺がクールでいられなくなる程に、どうしようもなく熱い槍を振るいやがる」に触発されて書きました。
ここでいう槍ってのはもちろんそのままの意味でもありますが暗喩でもあります。三本目の槍です(・∀・)
バーニングソウル!
劇場版でも、この俺を熱くさせられるのはこの世でたった一人みたいなこと言ってましたね。
幸村が大好きでたまらない筆頭が大好きでたまりません(*´ω`*)かわいすぎる




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