どうして人々がこのような死者に祈るのかと聞かれるだろう。すべての者が二人に祈るというわけではないが、それでも恋人たちは祈ったし、とくに不幸な恋をしている者たちはそうするのである。他の人たちは墓地を飾ったり、また敬虔な祈りの言葉を捧げている。とりわけ恋人たちは同情と救いを求めて祈るのである。私もなぜだろうかと自問せざるを得なかったが、つぎのような単純な答えを得た。死んだ二人がたくさん苦しまなければならなかったからだと。
このような祈りを促している観念は仏教よりももはるかに古くて、同時にもっとも現代的でもある――「苦しみという永遠の宗教の観念」といえよう。
小泉八雲「東の国から」より「赤い婚礼」