こんなに可愛い後輩に、にこっと笑ってお願いされたら断れるわけないでしょ?
だから特に内容も聞かずに、いいよー・なんて軽々しく言うんじゃなかったって今さら後悔してももう遅いんだけどね。後悔先に立たずってこういうことですか。


目の前にはにって笑う梓くんの顔。
周りに花が飛び散ってそうなくらいうれしそうなのは私の気のせいじゃないみたい。


私の口には甘い甘い香りただよわせるポッキー。
それは梓くんの口にもくわえられていて、


少しずつ近づいてくる梓くんの整った顔。


仮にも恋人同士なんだからキスをしたことがないわけじゃないんだけど、なんだかこういうのってすごくこそばゆい。

そんなことをもんもんと考えているうちにさっきより近くなった梓くんに驚いてびくりと肩を震わせてしまう。


「………」


一瞬少しだけ不思議そうな顔をした梓くんは後少しの所で停止するとじーっとこちらを見据える。
止まってくれたことに安堵を感じつつも少しだけ物足りなさを感じてしまったり…


…って何を考えてるんだ私は。
今はこの状況をどうにかしなきゃいけないときなのに…!


心の中で自分にびしりとお説教してからちらりと梓くんを見ると梓くんはいまだに私をじーっと見てたみたいで、ばっちり目が合ってしまう。


「………。」

「……。」


しばらくの沈黙の後にって笑ったかと思うと梓くんはあと少しだけ残ったポッキーをぱきりと折る。


「え…?」


覚悟を決めようとしていたところの出来事で、なんだか拍子抜けして梓くんをみると最初と同じようににこっと笑って「もう我慢できません」だって。
なんのことかと口を開こうとしたときに唇に感じる柔らかい感触。
小さなリップ音をたてて私の唇から離れた梓くんの唇はいたずらするときみたいな笑みを浮かべている。


「ななななな何するの梓くん!」

「待ってたんですよ、僕。」

「へ?」

「いっつもキスするのは僕からばっかりだったので、こういう状況作れば名前先輩からしてくれたりするかなーと思って待ってたのに。先輩全然食べ進めてくれないし…それに、そんな真っ赤な顔見せられたら我慢できるわけないでしょう?先輩が可愛いのが悪いんです。」


少し拗ねたようにそういう梓くん。
そんな子供っぽい表情をする彼に、ああもう可愛いのは君のほうだよ!なんて言ってしまいそうになったのは内緒です。





甘く痺れるかなしばり





title by:確かに恋だった
(110122)




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