「きもちわるい」
「は?」
唐突にそう口にした私に泉は怪訝な視線をむける。今まで座っていたソファにぼすりと横になって、できるだけ体を丸めて小さくなった。たまに、本当にたまに、こうやって急に負の感情がおしよせてくる。なんだかとても悲しくて、きもちわるくて、うまく言葉で言い表せないけど、とにかく頭の中とか胸のあたりとかがぐるぐるして、気を抜けば今にもはいてしまいそうなそんな感じ。込み上げてくる涙をそのまま目尻にためて、うー、と小さく唸る。
「ちょ、おま、ないてんの?」
少しだけあわてたような声色で私に声をかけながら近くによってくる泉のシャツをぎゅっと握った。そうしたら少しだけ楽になって、深く息を吐く。どうした、と問いかけられるけどわからないとしか答えようがない。泉は、シャツを握る私の手をやんわりと掴んで、そのまま包み込むように握っていてくれた。もう片方の手は、ゆっくりと優しく私の頭をなでてくれて、すごくすごく安心する。
そのまま暫く泉の手のぬくもりに甘えていると、少しずつ気持ちが落ち着いてきて、胸のあたりのぐるぐるがおさまってきた。ごめんね、と小さな声で呟いたら、気にすんなって泉は優しく笑ってくれた。
「たまにね、すごくかなしくなるの」
「うん」
「理由はわからないけどもやもやして、」
「うん」
「いっつもひとりで我慢してた」
「そっか、じゃあ、これからは俺のこと呼べ」
そしたらこうやってあっためてやっから、そう言ってくれた泉の言葉に小さく頷いた。さっきまでひやりと冷たかった指先は、じんわりとあたたかくなっていた。
(120314)
title by:死魚