どきんどきんと大きな音を立てる心臓を静めるために、シャーペンをぎゅっとにぎりしめた。日誌を書き進めながら、栄口くんをちらりと盗み見ると、彼は私の手元にじっと視線を向けていて、心臓がどきりと跳ねた。多分、彼は、そこに綴られる文字の内容を見ているだけだというのに、右手に熱が集中して、小さく震える。あんまりすきじゃない自分のまるっこい字が、なんだかとても子供っぽく見えて、恥ずかしさがこみ上げてくる。こんなことなら習字とか硬筆とか習っておけばよかった。
どうして彼がこんなに少しずつ埋まっていく日誌を凝視するんだろうとパンクしそうな頭でぐるぐる考えていたら、開けられた窓の向こうから部活動生の元気な声が聞こえた。そういえば栄口くんも野球部だったなと考えると一緒に、一つの結論にたどりついた。ああそうか、彼は早く部活にいきたいのだ。彼は優しいからもう一人の週番を置いてさっさと部活に行ってしまうなんてことは考えないのだろう。

「栄口くんってさ、」

「え?」

私の声に応えて視線を上げた栄口くんと目があった。うわ、なんかすごくはずかしい。

「野球部、だよね。今日も部活あるんじゃない?」

「あ、うん。これ終わったら行くつもり」

「…行っていいよ?」

「え?」

「あたしこれやっとくからさ、いっていいよ、部活!」

正直、机を挟んで向かい合っているこの距離が近すぎて、思うように言葉はでてこないし、一文字書くのにもとんでもなく緊張するから、彼が部活に行ってくれれば気楽に書けると思った。ただこのふたりでいられる時間が終わってしまうのは少し寂しいなあなんて思いながら、私は大丈夫だからさ、とにこりと笑って見せた。
けれど彼は暫くしても席を立とうとはしないで、書き終わるまでいるよ、とそう言って笑った。

「え、だって、」

「それで、俺がそれ職員室持っていくから」

そしたら下駄箱まで一緒に帰ろうか、なんて、この人は本当に優しい。その優しさに胸がぎゅーっと痛くなって、勘違いしてしまいそうになる。誰にでも優しすぎるそんな彼が少しだけ恨めしくなって、栄口くんは優しいねって小さく呟いたら、そんなことないよって返された。そんなことあるよ。栄口くんくらい優しい人は他にいないんじゃないかってくらい私はいつも助けてもらってるんだから。あなたが優しい人じゃなかったら、どうして私を助けてくれるの、と心の中で彼に問いかけた。





(120211)







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