「越前くんまたさぼり?」
「先輩こそ」
「私は越前くん探しの旅です」
なんすかそれ、と突っ込みを入れる越前くんの隣に腰をおろす。越前くんは少しだけこっちに視線をむけたあと小さな欠伸をもらす。
「そだ、これさっき調理実習で作ったの。越前くんにあげるね」
しらんぷりをきめこんだのかこちらを向こうとしない越前くんの鼻先にカップケーキをちらつかせる。ふいに伸びてきた手に奪われたカップケーキは、そのまま彼の口のなかへと消えてった。この食べっぷりを見るとおいしくできていたらしい。なんだか嬉しくて頬が緩む。
「先輩意外と料理うまいんすね」
「まあまずは胃袋から掴もうと思ってね」
「誰の」
「越前くん」
おいしかったでしょ?と問うと、越前くんはなんだか驚いたような顔をこちらに向けていた。
「なるほど、気付いてなかったか」
「……や、気付かないっしょ…」
越前くんは小さくため息をつきながらそっぽをむいた。目深に被った帽子から見える耳が少しだけ赤くそまっていたのがかわいくて、小さな笑みがこぼれた。
title by:死魚
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